会釈して笑顔の老女明易し

私の母もそうでしたが、女性の多くがご主人を亡くされて少し経つと、一時的に精神障害が起きるような気がします。たいていの場合は時間と周囲の気遣いで元に戻られるので、病人扱いせずに静かに見守ってあげるのが一番と思っていますが、近所のそんな女性の中の一人、普通の笑顔が返ってくるようになった日の句、、、。(2014年夏詠)

強きもの弱きを挫き旱かな

自然は厳しい。弱いものは容赦なく淘汰される。淘汰されたものは食物連鎖で次のものの餌となる。どうしてミミズは熱いアスファルトに出てくるのだろうと見ていたら、雀が飛んできて咥えて行った、、、。(2015年夏詠)

その一つ覗けば暗し蝉の穴

庭の木の下の乾いた土にぽつぽつと穴がある。それが蝉が地中から出た時の穴だと気づいたのは俳句を始めてから。小さな穴で覗くと暗い。すぐに曲がっているようだがまだ掘り返して確かめたことは無い。覗いてみたのは眺めていても句にならなかった時、、、。(2015年夏詠)

水掛けし中に落蝉生き返る

さあ八月です。心してがんばりましょう。時節がら庭にも落蝉の姿があります。一見生きているのか死んでいるのか分からない。蝉の身体は死んだ途端に乾いているような気がします。だからと言う訳ではありませんが、たまたま撒いた水が掛かり、ジジジジと鳴いて動き出した油蝉、、、。(2015年夏詠)

歩き出すまでつかの間の朝涼し

外に出ると一瞬だが涼しく感じる。さあ行こうと犬にリードを付け、歩き出すともうジワーッと暑さが襲ってくる。夏の散歩は大変です。今日は七月三十一日、当たり前ですが明日から八月、秋に向けてもう一頑張りです、、、。(2015年夏詠)

崩せども修復早し蟻の列

突然に庭を横切って延々と続く蟻の列を見つける。どこに大きな巣があったのだろうと思って探してみるが、結局元の巣の場所も行先の場所も分からないで、その中央辺りを箒で分断してみたりする。その時は慌てて右往左往しているように見えるが、ちょっと時間が経つとまた同じように粛々と列は続いている、、、。(2015年夏詠)

青田風そこに命のあるやうな

土手の上から青田を見ていると風が波となって寄せてくる。稲の揺れはちょうどその先端あたりで大きく、後はしだいに小さくなって行く。時々止まるような動きをし、渦巻いたりする。まるで風も生き物のように感じられる、、、。(2015年夏詠)