初夏の開けば白き俳句帖

いつも雑誌の付録の俳句手帖を使っている。角川の俳句には春夏秋冬年四冊の俳句手帖がついてくる。使いきれるほど詠めれば良いのだが、それはなかなか難しい。もったいないが、残っていても季節が変われば俳句手帖も変える。掲句、そんな日の一句。今年の夏の俳句手帖は表紙が薄緑色で涼しげだ、、、。(2013年夏詠)

ハーレーの連なる音も五月かな

五月はライダー達にとっても最高の月なのだろう。休日になると連なって走る多くのオートバイを眼にする。音の響きは何と言ってもハーレーダビッドソンだろう。あの重厚な音を連ねて通り過ぎる様は見ていても気持ちが良い。そしてそのライダーに、我々の年代かそれ以上の、意外と歳を召した方が多いのも楽しいことだ、、、。(2013年夏詠)

山の湖余花を映して動かざる

車で少し走ると日本の棚田百選に選ばれた棚田が何箇所かあります。棚田ですから山の中です。次の棚田へ行くのも山の中です。そんな道を走っていて突然開けて、現れた大きな池。人影は全く無く、鳥の声がするだけの静かな湖面に、遅咲きの岸辺の桜が、鮮やかに映っていた、、、。(2013年夏詠)

牡丹にビニール傘の一つずつ

毎年一度は近くにあるお寺の牡丹祭りに出かけるが、多くの牡丹を咲かせるのは難しいらしく、なかなか見頃に行き合うことがない。掲句は近所のお宅の牡丹、数株の牡丹それぞれに真新しいビニール傘が差しかけてあった。そぼ降る雨の中で、透明なビニール傘を通して見える紅い牡丹が何とも言えず美しかった。牡丹に雨傘を差しかけてあるのはよく眼にする光景だが、使い古しの傘ではこうは行かないだろうと思った、、、。(2013年夏詠)

マンションの満室御礼春の果て

こんな句があった、、、。長い間同じ道を通って会社へ通ったが、その間にも途中の風景はずいぶん変わった。田圃の畦道のようだった道が舗装され、広くなった途端に家が建ち始めたのもずいぶん前だった。それでも長い間その周辺には田圃が残り、水音や蛙の声が聞こえたが、作られる方が年老いたからか、あるいはブームなのか、次々にマンションが建ち始めた。TVで目にする会社の幟がいくつも風に揺れていたが、なかなか埋まっていく気配はなく何年かが過ぎ、掲句の日が来た。通りかかると、真新しい満室御礼の看板が、、、。(2011年春詠)

雀の子虫に遊ばれゐたりけり

朝の散歩をしていると、突然子雀が舞い降りた。見ると大きな虫を咥えているが、どうやら上手く咥えられなくて降りてきたものらしい。まだ生きている虫も必死で動いている。なかなか面白い攻防で、しばらく足を止めて眺めたが、そのうち咥えどころが良かったと見えて、子雀は飛び立って行った、、、。(2013年春詠)

降り止めば蘂も降り止む暮春かな

消費税の値上げで郵便料金が上がり、はがきの切手代が52円になった。俳句雑誌の投句はがきに、買い置きしてある50円切手を一枚貼って、あと2円を探したが見つからず、やむを得ず近所の郵便局へ出かけた。男性の局長に女性局員二人の小さな郵便局が繁盛していた。窓口ではがきと2円を出すと「あ、切手ですね、貼って出しときましょうか?」「ええ、お願いします」「領収書は?」「要りません」私の声に気づいた顔見知りの局長がこちらを見てペコリと頭を下げた。私もペコリ、忙しそうなのでそのまま帰った。それだけの事なのだが、あの美人の女性局員も私のように、ベロリと舐めて切手を貼ったのだろうか、、、?(2013年春詠)