花万朶空に日陰のなかりけり

満開の桜があり、雲一つ無い空がある。他に何が必要だろうか、、、。津山吟行での句会場にと思っていた作州城東屋敷の座敷が借りられることになり、市役所まで手続きに行った。担当の部署は市庁舎の五階にあった。来意を告げると、一番奥の席で窓を背に電話されていた方が出て来られた。簡単な書類を書き「すぐに許可証を発行しますから」と言われるので、待つことにした。手持ち無沙汰で、ぐるりと見渡すと、南側の広い窓の正面に鶴山公園が見えた。この位置から見る鶴山は初めてだった。まさに満開を迎えようとする山は、全体が桜色に染まって見えた。きれいだった、、、。ほどなく許可証は出来た。「ここはいいですね、鶴山が正面に見えて。初めてです」と言うと、「ええ、いいでしょう、五階だけなんですよ。こちらからは衆楽も見えるんです」と席のあった後側の窓を示された。市庁舎のすぐ下が衆楽園だった、、、。昨日下見に行った城東屋敷で、管理人の女性二人が「担当はMさんです」「あの人、ちょっと偉くなったんだったね」と話していたことを思い出して、すこしだけ可笑しかった、、、。(2010年春詠)

定年などどふでもいいや花の昼

定年まで二年を切って、事務上の煩わしい話が出てきた頃の句です。しかし再雇用の話もありましたし、内心では定年で退職出来るとは思っていませんでした、、、。それがひょんな事から自由の身になり、すでに一年と二ヶ月を過ごしてしまいました。これで良いのやら悪いのやらわかりませんが、経済的な面を除けばまんざらでもない、、、。(2010年春詠)

万愚節犬にもありし泣黒子

すでにご推察のとおり嘘です。犬に黒子はありません、、、。4月1日になれば「割り箸を使ったメンマの作り方」を思い出します。実に面白い記事でついつい仕事中に夢中で読みました。探したらまだありましたので、暇な方は読んでください。場所はここです。(2013年春詠)

つばくらや軒端まで積む肥袋

田圃の中の道を徒歩通勤していましたが、純粋な農家はほとんど無く、数少ない農家らしい造りの家でした。納屋の軒下には肥料(と思われる)ビニールの袋が積み上げられ、表戸を開けた納屋の薄暗がりには絶えず燕が出入りしているのです、、、。時季的にはもう少し後の句ですが、初燕を見て思い出したので書きました。(2002年春詠)

鳥曇野に傾きし墓数基

歩いて会社へ行く途中の、道路から田圃二枚ほど離れた場所に、古い墓地がありました。遠目にも古いとわかる大小の石塔が、同じ方向に傾いて道路のほうを向いて立っていました、、、。この句を詠んでしばらくして墓地は改修され、今では石塔はきちんと直立しています、、、。偶然の一致で、私が詠んだからではありません。(2000年春詠)

下萌や芝生に光る陶の椅子

これは中国自動車道のどこかのサービスエリアだったと思いますが、どこだったかは記憶が定かではないのです。芽吹きだした芝生に、白に藍色の模様の丸い陶器の椅子がいくつか置いてありました。陶の椅子はやわらかに朝日を返していましたが、座ると冷たそう、まだそんな季節でした。たぶん出張の途中だったと思います、、、。今はドッグランがある所が多いですね。(2000年春詠)

鶯や目鼻わからぬ石地蔵

ご先祖様は信心深かったのでしょう、家の横の石崖沿いのほんの小さなスペースにも、お地蔵様や五輪塔などがあります。今では草の中で、申し訳ないという心だけは持ち続けているのですが、手が回りません、、、。このシリーズ終りです。<その9>(2009年春詠)