電車もディーゼル車もひっくるめて汽車と言ってしまう。一両だけでも列車だし、警笛ではなく汽笛と言ってしまう。ということで掲句、実際は警笛です、、、。(2012年春詠)
投稿者: 牛二
春炬燵涅槃の底の猫の声
涅槃と言えば大げさだが、春の炬燵の中でうつらうつらしているのは「すべての煩悩の火がふきけされて、不生不滅(ふしょうふめつ)の悟りの智慧を完成した境地」に居るようなものではないだろうかと思う、、、。(2011年春詠)
中州へと渡るすべなしきぎす鳴く
川は毎年少しずつ流れを変える。近くの吉井川も十何年か前の大水の時に、リセットされたように一度きれいになったが、その時に出来た細い流れが今では飛び越せない幅になり、淵まで形成して水鳥たちの格好の遊び場になっている。その向うに広がった中州は大きな柳の木までが成長し、ちょっとしたジャングルのようになり、四季折々の鳥の声が聞こえてくる。この頃は雉の声が、そろそろ恋の季節なのだろう、時折間の抜けたように聞こえてくる、、、。(2012年春詠)
春泥の乾きて車庫のトラクター
古くもなく新しくもない、と言った風情の住宅街だった。少なくとも見える限り通の両側は庭付きの普通の民家で埋まっており、農家らしい家など見当たらなかった。そんな中の通に面したシャッターの上がった車庫を覗くと、車ではなく大きなトラクターが入っていた。農家らしくない佇まいの家の車庫の中でトラクターは、「どうだ」と言わんばかりに、外車なみの存在感を見せていた。大きなタイヤには土が乾いていたが、、、。(2012年春詠)
ゆるびつつ小川は春の音となる
私の生活圏にはたくさんの農業用水があります。大きさも形状もさまざまですが、どの用水も春になればしだいに水量が増えてきます。それにつれて水音も明るく軽やかになって来る、と思うのは春を待っている私の心ゆえでしょうか、、、?(2011年春詠)
凍ゆるむ鍵穴さぐる指先に
寒いのにわざわざ歩く必要も無いのだが、出来るだけ歩いて通勤することにしていた。冬は寒かった。手袋をしていてもジンジンする指先を、バッグを持ち替えてはかわりばんこにポケットに入れた。会社へ着いてからがまた大変で、凍える指先で鍵を握り、正門、通用口と開けていく。そんな季節を越えてふと感じた春の到来、急いで中に入りセキュリテーのロックを外すと、これは年中変わらない機械の中のお姉さんの「おはようございます」の美声、、、。(2011年春詠)
春寒やゆつくり灯る水銀灯
倉庫の高い位置に水銀灯があった。暗い中でスイッチを入れると、水銀灯はゆっくりと明るくなっていく。明るいような暗いような、という表現が良いのかどうか、水銀灯には独特の明るさがある。点るまでの時間はわずかなものだが、そのわずかな時間が春先の薄ら寒さを増幅するような感じがするのだった、、、。(2011年春詠)
内臓の重たし眠し春の風邪
たぶん会社で仕事中に詠んだ句でしょう、こんな句が、、、。退職してプール通いを始めて2年が経過しました。学生時代の部活よりも真面目に通っています。おかげさまで退職前よりもずいぶん元気になりました。退職前はいろいろと衰えを感じることが多かったのですが、その多くはプール通いで解消しました。風邪もひかなくなったようです、、、。(2010年春詠)
春疾風駐輪場をかけぬけし
掲句は2010年の作ですが、それよりもずいぶん前の話です。再開発で岡山駅前もずいぶん変わりましたが、まだ変わる前の駅前でのことです。道路わきにところ狭しと自転車が置かれていました。邪魔になるなあと思って見ながらあるいていたちょうどその時に、後から強風が駆け抜けて行きました。と同時に自転車がバタバタと将棋倒しに倒れてしまいました。あっという間の出来事で、ちょうど自転車を置いて離れようと手を離した男性が、自分の自転車を押さえることも出来ないほどでした。確かその日の夕方のニュースで春一番が吹いたと、、、。(2010年春詠)
誰も居ぬ夜の会議室室の花
さあ、そろそろ戸締りをして帰ろうかと、一人取り残された会社の廊下へ出た。ドアの開いた会議室の前を通ると佳い香りがしてきたので覗いてみると、明かりが消えた部屋の窓際に花が飾られていた。その一角が、カーテン越しに入るわずかな外光を背に、妙に近寄りがたい厳かな雰囲気を漂わせていて、覗いた瞬間に心臓が止まるほどドキッとした、、、。(2010年冬詠)