秋めくや洋灯の宿に古箪笥

久世にランプを見せてもらえる旅館があると聞いて寄ったことがあります。残念ながらもう営業されていないのか、ホームページも消えているようです。実用的なランプから、装飾に技巧を凝らしたランプまでありました。ほんのきまぐれで寄っただけなのですが、暗くした古い二階の和室へ通され、一番見事なランプをわざわざ灯してくださいました。火を点けた時に、やさしく広がって行くランプの明かりは素敵です、、、。これも演出の一部なのでしょうか、古箪笥が、、、。(2001年秋詠)

仁王門過ぎて百段秋暑し

昨日の続きです。仁王門からさらに百段ほどの石段が続きます。足には自信がありますが、さすがにこの百段はきつく、暑いだけで虫時雨を聴く余裕はありませんでした、、、。という、つまらない落ちです、、、。<余談>精進料理のお店は参道を挟んで二軒あります。食べ比べたことは無いのに、最初に美味しいからと連れて行ってもらったほうのお店ばかりに行ってしまいます。これってなぜでしょうね、、、?(2009年秋詠)

仁王門までの百段虫時雨

鳥取の郊外にある摩尼寺での句。寺の石段にかかる手前に精進料理のお店があります。実はその料理が主たる目的で、何度か寄ったことがあるのですが、摩尼寺の本堂まで上ったのはこれが二回目です。もちろん、先に精進料理をいただいて、腹ごしらえをした後です、、、。石段にかかる手前には参拝者用に杖が用意されています。それだけ長く急峻な石段が続きます。もちろん、私は使いませんよ。覚悟して上ります。両側にある石灯篭や杉の巨木を見ながら、虫時雨の中を一歩ずつ上って行きます。百段ほど石段を上ったところに仁王門があります。少し平地になっており、置いてあるベンチで一休みです。水を持っていて良かったと思った瞬間でしたが、目の前には本堂へむけて、次の石段が見えているのです、、、。(2009年秋詠)

溝萩や御堂に古き石香炉

道路が出来るという話で移転し、建て替えられた大師堂。建物は集会所を兼ねた今風になったが、傍にはお決まりのように溝萩の花が植えられ、今を盛に咲いている。コンクリートを打った軒下に、風化した花崗岩で出来た四角い香炉と思われる物が置かれている。前の御堂にあった物を移転したのだろう、年代物の古びた石の表面には「世話人雲州亀松」の文字が読める。以前に聞いたことがある、古くから出雲と関わりがあった土地、という話を思い出した、、、。(2012年秋)

走馬灯ふすまの影もまはりけり

夜の田舎道を走っていると、時々軒下に明々と吊るされた新しい盆提灯を見ることがある。そのお宅を知っているわけではないが、何度も走っている道だから、何となく新しく盆を迎えたお宅と感じられる。後の明々と灯された座敷にはきっと走馬灯が回っているのだろう、華やかに、そして静かに、、、。(2008年秋詠)

無遠慮な保険外交秋暑し

外交員なのだから図々しく押していかないと契約が取れないのはわかるが、程度が過ぎると話をするのが嫌になってくる。社員食堂の昼食時間には入れ替わり立ち代り保険の外交員が来た。地道に人脈を作り、長年訪れた外交員もあったが、多くはすぐに消えて行った、、、。(2001年秋詠)

一角の秘密基地めき葛の花

葛の繁殖力には恐ろしいものがありますね。大きな木もいつの間にか自分の物にしてしまう。木から木へ移り、下にぽっかり空間が出来ている。秘密基地にちょうどいいなと思ってしまった、、、。男の子に秘密基地は付き物だった。こういう自然に出来た空間はもちろんだが、自分たちで穴を掘って秘密基地を作ったことがあった。数人がかろうじて入れる穴の中に、てんでに家から盗んできた食料を持ち込み、これまた仏壇から持ってきた蝋燭を灯して遊んだものだが、大人に気付かれると次の日には基地は消滅した。今思えばずいぶん危険な遊びだったが、面白さはTVゲームの比ではない、、、。(2010年秋詠)

蜩や庭の続きに父祖の墓

実家の裏手にある古い墓地、石を置いただけの物を含めると全部で二十基ぐらいだろうか、一番新しいもので明治の年号が読み取れる。それ以降は別の墓地へ眠っている。掲句、この年までは父が元気だった。帰省して、墓参りをして、何となく詠んだ句だが、翌年からは自分で掃除をすることになった。蜩どころでは無くなってしまった、、、。(2002年秋詠)

新涼や路地に母呼ぶ幼声

長いサラリーマン生活のほとんどを、同じ時刻に同じ道を通り、同じ路地を抜けて会社に通った。長い年月の間には、畦道が立派なアスファルトの直線道路になり、やがて周辺が宅地へと変わって行った。新しい家が建ち、新しい人々の営みが始まった、、、。よくよく考えてみると、徒歩20分の通勤路で、ほとんどの道が変わって行った。唯一変わらなかったのがこの路地だったように思う。もちろん、住んでいる人は歳をとり、子どもたちは巣立って行ったが、、、。(2001年秋詠)