昔はもっと広かったそうだからその名残なのだろう、名園とその古い旅館は高い板塀で仕切られていた。地元の旅館に行くことなど滅多にないが、前日から宿泊していた知り合いを迎えに行った朝、少し周囲を歩いてみた。名園側からは何度も見たその板塀を、裏から見るのは初めてだった。名園との近さに、なるほどと感心しながら歩いていくと木戸があった。もしやと思い、開けようとしたが、残念ながら釘で打ち付けられているらしく、開かなかった。それではと、少しだけ開いた隙間から覗くと、やはりそうだった。見慣れたところを裏から見るのは新鮮で、もう少し見たかったが怪しまれそうで身を引いた。木戸の傍らに石蕗の花が咲いていた、、、。(2010年冬詠)
カテゴリー: 2010
鰤の荒提げて獺気分かな
頼まれて鰤の荒を買って帰る途中にふと出来た句。きっとその前にカワウソの映像かなんかを見ていたのだろう。もっとも頭の中ではカワウソもラッコもビーバーも、果はヌートリアまでも、イメージが重なってしまっている、、、。(2010年冬詠)
ボロ市も覗き句会の時待てり
歳時記の「ボロ市」は東京世田谷のボロ市、掲句のボロ市は句会へ行く途中で出会った岡山の商店街の小さなボロ市ですが、まあ良しとしましょう。古本屋も好きですがボロ市も好きで良く覗きます。古い物、懐かしい物に出会うとついつい見入ってしまいます。高知の朝市にもそんなお店がたくさんあります。町内の旅行で行った時、つい夢中になって集合時間に遅れたことがあります。この時は幹事でしたので冷や汗物でした、、、。(2010年冬詠)
冬ざれや鉄扉肩にて押し開く
人の少ない、ただっ広い工場は寒い。覚悟を決めて防寒着を羽織る。事務所を出ると薄暗い廊下が待っている。やたらと長細い工場の、これまたやたらと長細い廊下、はるか向こうに非常口の明りが見える。廊下を歩く間に防寒着の前を留め、手袋を嵌める。安全靴が重い。屋外への古い鉄扉はやたらと重く、冷たい。手袋を嵌めた手に、その冷たさを感じながらノブを回し、肩の力で思い切り押し開く。途端に北風が入ってくる、、、。(2010年冬詠)
板塀のしきる女湯朴落葉
町内の慰安旅行、三朝温泉の露天風呂です、、、。(2010年冬詠)
見下ろして一村一寺銀杏散る
川向こうのなだらかな山すそに畑が広がっている。収穫が終った畑に人影は無く、柔らかな午後の日差が降り注いでいる。道はまばらに点在する人家を縫うようにして山へと続いている。その人家が途切れた山の中腹あたりに、一目でそれと分かる寺の大屋根が見える。大屋根の傍には、お決まりのように大きな銀杏の木が、色づいて黄金色に輝いて見える、、、。県北を走っていて見かけた村の風景、、、。(2010年秋詠)
咲く石蕗の花より低し石祠
最近ご無沙汰しておりますが、近くに一人吟行に行く作楽神社があります。その境内に「オッペケペー節」の川上音二郎が寄進したという神楽殿があります。その神楽殿裏の石蕗の花と石祠です、、、。(2010年冬詠)
菊の鉢片寄せひそと忌中札
通勤途中の酒屋の店先には春夏秋冬それぞれの花や鉢物が飾られ、通り過ぎる間の僅かな時間であるが、私の眼を十分に楽しませてくれた。秋にはもちろん、大輪の菊が何鉢も飾られ、入口が分からないほどだった、、、。ある日通ると、その菊の鉢がすべて片寄せられていた。閉じられたままのガラス戸の内側に、色褪せた白いカーテンが重そうに垂れているのが見えた。そして、梁の中央に黒い縁取りの忌中札が貼られていた、、、。(2010年秋詠)
プレス機のリズム夜業の紙器工場
冬になりましたが、しばらく秋の句を続けます、、、。前にも登場した紙器工場です。昼間に覗いて見ると、奥へ細長い雑然とした工場で入口に近いところに古びた機械があります。動いているところを見たのではありませんが、これがプレス機なのでしょう、夜に通ると入口に近いところから「カタコンパタン、カタコンパタン」とプレスの小気味良い音が聞こえていました、、、。(2010年秋詠)
しつかりと食べて太りて冬用意
10月も今日で終りです。そろそろ冬支度、先ずは皮下脂肪の貯蓄から、、、。(2010年秋詠)