山上の三角点や鳥渡る

子どもの頃、その辺りで一番高い山の上に三角点があると聞いて、いつか見に行こうと思っていたが、結局その山には登らないうちに故郷を離れてしまった。初めて三角点を見たのは、学生時代に部活仲間と登った那岐山の山頂だった。これが見たかった三角点かと思ったが、それよりも山頂からの眺めのほうがすばらしく、見たという記憶だけが残った。その後も何箇所かで三角点を見たが、どこも山上の見晴らしの良い場所だった。鳥はそれよりもはるかに高いところを渡って行くのだからすごいものだと思う、、、。(2011年秋詠)

これ見よと茸通路の真ん中に

備中国分寺の南側の駐車場から五重塔へ行く最後の上り坂の通路の真ん中に生えていた茸です。ちょうど坂の途中で目に付くところだからでしょう、通路の真ん中にもかかわらず踏まれずに立派に傘を開いた茸でした。食用?なら良いのですが、、、。(2011年秋詠)

どの顔も笑顔の地蔵曼珠沙華

吉備中央町本宮山円城寺での句です。道の駅「かもがわ円城」から反対側に少し入ったところにあります。715年開基とありますからずいぶん古いお寺です。岸田吟香が志を立てて初めて東京へ出る前に立ち寄って書いたという落書きがあります。岸田吟香はご存じなくても岸田劉生の麗子像ならご存知でしょう。岸田劉生の父上が岸田吟香です。余談ですが、吟香は美咲町の「たまごかけごはん」の創始者だそうです、、、。(2011年秋詠)

向日葵や介護の車来て止まる

三本ほど植えてあった向日葵がお婆さんの背丈の二倍ぐらいになって花をつけている。一人になられてからは近くの息子さんの家で寝泊りし、毎日お嫁さんの車で通って来られるのが八時過ぎ。それから雨戸を開ける音やら、仏壇の鈴の音やら、いろいろ指示をされるお嫁さんの大きな声(お婆さんは耳も悪い)が続き、一区切りついた九時頃にデイサービスの車が迎えに来る。我家の前をバック音をさせながら通過し、ちょうど向日葵のへんで止まる。ドアが開き、迎えに来た介護師の明るい声が聞こえる。「おはようございます」「お婆さん来られたで!」「早ようせにゃあ!」、、、一通り連絡事項などが済むと車は出て行く。お嫁さんも後を追うように自分の仕事に出かけられる、、、。(2011年夏詠)

鳶も子を育てるころぞえごの花

吉井川の川向こうに岸辺まで山がせり出したところがあり、高木が茂っている。この時季岸辺には、これも大きなえごの木に咲く白い花がちょうど良い距離感を持って眺められる。高木のどこかに鳶が営巣しているのであろう、えごの花に合わせるように、鳶の子の甘え声が聞こえるようになる。鳶の子は襲われる心配がないのか、その甘え声は大きくてうるさいぐらいに賑やかだ。ちょうどあのピーヒョロロを甘え声にした感じの声、、、。(2011年夏詠)

羽広げ風を呼込む鵜のかたち

いつ頃からか覚えていないが、吉井川にも河鵜が増えたり減ったりしながら生息している。時々川の中の岩場で羽を広げて動かない鵜を見かける。たぶん羽を乾かしているのだろうと思うのだが、寒い冬の雪の降る中でも同じ形でいることがあるからどうだか、、、。(2011年夏詠)