待春や声の元気な郵便夫

私が子供の頃の郵便配達は自転車でした。朝から配り始めて、一日かけて山奥の行き止まりの家まで配るのですが、私の家に来るのがちょうどお昼頃でした。だから郵便屋さんはいつも私の家でお弁当を食べていました。お弁当を食べて一服して、家の大人たちと世間話をして、それからまた出発して行くのでした。それは配達が自転車から赤いバイクに変わるまで続きました、、、。掲句、久しぶりに「郵便です!」の元気な声を聞いた時の句、もちろん「ご苦労様!」も元気に返しましたよ、、、。(2013年冬詠)

雪晴や天の明るさ地が返し

雪晴の日は空と地上の両方から光が来て、まぶしさが二倍になります。今は昔、子供が小さかった頃には、年に何度かスキーに連れて行きました。と言っても自分のほうは滑らない(滑れない)ので、雪原に腰を据えて雪晴を楽しみながら缶ビールを飲んで時間をつぶしていました。子供が滑るのに飽きた頃にはちょうど酔いも醒めて、さあ帰ろうと腰を上げるのですが、今では考えられないことですね、、、。(2013年冬詠)

ゴルファーの一枚脱いで春隣

散歩に行く吉井川の河川敷の公園でゴルフをする人がいます。河川敷の公園でゴルフをして良い訳が無いし、こちらもそれなりの年配になったし、おまけに見た目の怖そうな大きな黒い犬まで連れているので、平気で図々しくゆっくりと間を通って行きます。さすがに通り過ぎるまでに構わずに打ってくるようなゴルファーはいませんが、ゴルフならゴルフ場へ行けと言いたくなります。そうそう、こういう時はわざと帰りも同じコースを歩きます(笑)、、、。(2013年冬詠)

寒林の樵無口なやさ男

滅多に買うものじゃあない洗濯機を十七年ぶりに買いました。たかが洗濯機と思って買った十七年前に、それまでのグルグル回るだけと思っていた動きが変わっているのに驚いた記憶があります。だから今回もそれが楽しみで、上部の窓から眺めていたのですが、面白いですね。実に複雑な細かい動きをしていて、見ていて飽きないのです。しかし、老年の男がじっと洗濯機を覗いている図なんて、あまり見られたものではありませんね、、、。(2013年冬詠)

枝先に一羽武蔵の冬の鵙

宮本武蔵が描いた水墨画に「枯木鳴鵙図」と言う枯木にとまった鵙の画があります(ネットでも宮本武蔵 鵙で検索すれば出てきます)。掲句は散歩の途中でちょうどあの図のような構図を見た時の句です。実際に見た鵙の顔は、武蔵の画ほどの厳しさはありませんでしたが、それでも十分に猛禽類の顔でした、、、。ここからは雑学です。枯木鳴鵙図の鵙は右向きに描かれています。これは武蔵が左利きだった証拠で、右利きだったらたぶん左向きに描いていただろうとのことです、、、。(2013年冬詠)

冬晴や渡る気のなき交差点

田舎の交差点は車と一対一になることが多いので、青信号の交差点に立って考え事をしていると、車の人に不審がられますが、その点都会はいいですね。お互いに無関係な関係で、、、。もちろん考えているのは、控えている苦会、いや句会のこと、、、。(2010年冬詠)

地に還るものを眠らせ大枯野

二週間ほど前になりますが甥の結婚式で久しぶりに大阪へ行きました。翌日高速バスの待合室で時間をつぶしていると、道路の向こう側の歩道を散歩する黒ラブの姿が見えました。離れていたので犬が黒ラブであること、連れているのが私と同年輩の男性であることぐらいしか分かりませんでしたが、いつものコースなのでしょう、どちらも慣れた足取りで通り過ぎて行きました。まるで我家と同じだと思ったのですが、ふと歩くところがまるっきり違うことに気づきました、、、。(2013年冬詠)

寒雀パンのかけらを確かむる

散歩の途中の土手の舗装路に雀が降りてきた。見るとパンの耳らしき物を銜えている。初めて貰った物か、一端路上に置いて首をかしげながらつついてみている。近づくと銜えて数メートル先まで飛んでいき、また同じことをしている。それを二三回繰り返すと、やっと私が行く方向に逃げていることに気づいたのか、道から外れて田んぼのほうへ飛んでいった、、、。(2013年冬詠)