霜柱踏む新しきスニーカー

新しい靴を履くのは大人になってもうれしいものですね。新しい、それも少し奮発したスニーカーを履いて朝の散歩に出た時の句です、、、。子どもの頃の運動靴はよく靴擦れを起こしましたが、最近のものは見た目もいいですし靴擦れを起こすことも無いですね(新しく買ってもらう靴は、いつも大きめだったからかも知れませんが)、、、。(2000年冬詠)

鰤の荒提げて獺気分かな

頼まれて鰤の荒を買って帰る途中にふと出来た句。きっとその前にカワウソの映像かなんかを見ていたのだろう。もっとも頭の中ではカワウソもラッコもビーバーも、果はヌートリアまでも、イメージが重なってしまっている、、、。(2010年冬詠)

冬の鵯夕日に声を絞りけり

テレビで鵯の渡りの映像を見ました。四国の佐多岬から九州へ向けて渡るところでした。群をなして鳴きながら渡っているところは鵯らしいと思いましたが、上空に鷹が現れると一斉に急降下して、海面すれすれを滑るように渡っていくところは、鵯には悪いですが、鵯らしからぬと思ってしまいました、、、。それより何より、鵯も渡鳥だったのですね。俳句では鵯は秋の季語ですが、私の生活環境の中では冬のほうが印象の強い鳥です、、、。(2008年冬詠)

ボロ市も覗き句会の時待てり

歳時記の「ボロ市」は東京世田谷のボロ市、掲句のボロ市は句会へ行く途中で出会った岡山の商店街の小さなボロ市ですが、まあ良しとしましょう。古本屋も好きですがボロ市も好きで良く覗きます。古い物、懐かしい物に出会うとついつい見入ってしまいます。高知の朝市にもそんなお店がたくさんあります。町内の旅行で行った時、つい夢中になって集合時間に遅れたことがあります。この時は幹事でしたので冷や汗物でした、、、。(2010年冬詠)

冬ざれや鉄扉肩にて押し開く

人の少ない、ただっ広い工場は寒い。覚悟を決めて防寒着を羽織る。事務所を出ると薄暗い廊下が待っている。やたらと長細い工場の、これまたやたらと長細い廊下、はるか向こうに非常口の明りが見える。廊下を歩く間に防寒着の前を留め、手袋を嵌める。安全靴が重い。屋外への古い鉄扉はやたらと重く、冷たい。手袋を嵌めた手に、その冷たさを感じながらノブを回し、肩の力で思い切り押し開く。途端に北風が入ってくる、、、。(2010年冬詠)

初霜や畑に残る屑野菜

畝に収穫前の太った白菜が並んでいる。端っこのほうの収穫が終ったところには、根元から切られて株が残され、萎れかけた屑菜が散らばっている。白く見えるのは霜が降りているのだろう、早朝の畑は静寂そのもの、、、。(2000年冬詠)

古書店の通路は狭し一葉忌

買うことは少ないのですが、古書店そのものが好きで、見つけると寄ってみます。そんな古書店の一つ、岡山奉還町の、句会への途中で寄道した古書店です。少しだけストーブの灯油の匂いがするお店でした、、、。今日は一葉忌、、、。(2012年冬詠)

風一夜さわぎて朝の石蕗の花

雨風の激しい一晩がありました。朝には雨は上がっていましたが、木々は濡れ、動きの早い雲の間から時折太陽が覗くような初冬の天候でした。散歩に出ると、昨夜の風の狼藉ぶりがそこここに見えます。桜並木はすっかり葉を落とし、濡れた落葉が舗装路に貼り付くように残っています。根元の草むらは風に押し倒されるように乱れ、その間から石蕗の黄色の花が健気に覗いていました。気をつけて見ると、どなたが植えられたのか、それぞれの桜の木の根本に黄色の花が、、、。それから一年、今年からその石蕗の花を見つける楽しみが出来ました、、、。(2012年冬詠)

夜神楽のお面忘れし稲田姫

もう一句、備中神楽の一こまです。神楽に酒はつき物ですが、楽屋で出番を待っている間に飲みすぎて、お面をつけずに舞台に上がってしまった稲田姫です。これは神楽太夫をしていた父から聞いた話で、後楽園で見た神楽ではありませんので、念のため、、、。手力雄だったか稲田姫だったか猿田彦だったか稲脊脛だったかもあやふや、、、。(2013年冬詠)