てんと虫指より空を好みけり

テントウムシの仲間はだいたいがアブラムシなどの害虫を食べる益虫らしい。何と言っても代表的なナナホシテントウムシは配色もいいし、動き回る姿も愛らしい。噛み付かれることもないし、刺されることもない。でもって、掌で遊ばせていると指から空へ、、、。もっとも、遊ばせていると思っているのは人間だけで、テントウムシにとっては迷惑に違いないのだが、、、。(2009年夏詠)

枯葦のしなふが楽し群雀

年末だから軽く流しています。と言うか、なんだかんだ言っても忙しいからでしょうか、年末の句は少ないのです、、、。雀っていいなあ、いつも楽しそうで、と、競うように枯葦にゆれている雀を見た時の句です、、、。(2009年冬詠)

声がして鳰の浮巣はあの辺り

吉井川の私が散歩する側は広い河川敷があり公園になっている。川を挟んだ向こう側は岸辺に山が迫っており、ほどよく緑が茂っている。笑い声のような鳰の声が時々聞こえてくる。声はすれども姿はない。浮巣もまだ見たことがないが、きっとあの辺りなんだろうと想像している。もう少しすれば浮いたり沈んだり、小さな姿が見えるようになる、、、。(2009年夏詠)

山よりも高き鉄塔霞みけり

山の中で過ごした小学生の頃に送電線の工事があった。通学路の頭上を横切る形で、V字型の谷の両側の山に鉄塔が建ち、やがて送電線が張られて行った。ちょうどその工事の時だったのだろう、学校の帰りに上を見ると、その頭上数十メートルの送電線に人の姿があった。どういう形だったかまでは覚えていないが、ドキドキしながらサーカスの空中ブランコでも見るような気持ちで眺めた。それ以後何年も、そこを通る度にまた見えるかも知れないと期待したが、結局実物を見たのはその一度っきりだった。時々テレビで同じような工事の場面を目にするが、この時のようにはドキドキしない、、、。掲句、本当は鉄塔が山より高い訳はないのだが、、、。(2009年春詠)

車夫一人弁当使ふ柳の芽

倉敷美観地区でお馴染みの人力車の車夫が、河畔の柳の木の下に座って一人で弁当を食べていた。普段は観光客の呼び込みに余念がない車夫だが、この時ばかりは静かに自分の世界に入っているように見えた。風に揺れる芽柳の薄緑が若い車夫に似合っていた、、、。(2009年春詠)

冬夕日水に硬さのもどりけり

毎日の散歩コースの吉井川べりは、日が落ちると途端に寒さが増してくる。風というほどではない冷気の流れが頬や手先を冷やしていく。川面は暮れてゆく空に呼応するように、しだいに硬いガラスのような色へと変化していく。水が硬くなるわけはないのだが、、、。(2009年冬詠)

股引の足が見えをり楽屋口

岡山の後楽園を吟行した時のことです。遠くから備中神楽の太鼓の音が聞こえてきました。聞き慣れたその音に、吸い寄せられるようにして見に行きました。名前は忘れましたが、座敷を開け放った古い建物で備中神楽が舞われていました。建物が小さいので、上がり口に幕を張って楽屋が設えてありました。楽屋口の外にはスニーカーが雑然と並んでいました。若い神楽太夫ばかりなのかと思いましたが、幕の下に見えたのは股引を穿いた足でした、、、。(2009年冬詠)

走り蕎麦まづはカメラで食しけり

これはテレビで紹介されたことのある、あるお蕎麦屋さんで見た風景です。マニアの方でしょう、立派なカメラでした。私も撮ることがありますが(携帯で)、たいていは食欲のほうが先で、箸のほうに手が伸びてしまいます、、、。お蕎麦屋さんもずいぶん増えましたね。雑誌の紹介記事を見たりして時々行くのですが、正直なところ一度っきりになるところが多いです、、、。(2009年秋詠)