鉢ならべ冬のつましき路地暮し

狭い路地に面した入口の軒下に幾段にも鉢が並べられている。入口の半分ぐらいまでを鉢が占領している家もある。去年の枯れた花がそのままの鉢、その間から新しい芽がのぞいている鉢、葱の植わっているトロ箱などもある。気の早い家ではもう春の準備が始まっており、並べ替えられた鉢がまだ居心地が悪そうに見える、、、。(2013年冬詠)

するするとビルの壁より冬男

岡山駅の東口から二階に上がり連絡通路を通って西口方面へ向う。連絡通路は西口を過ぎ、道路を渡って岡山全日空ホテルのビルのところまで繋がっている。ビルの手前でエスカレーターを使って一階まで下りるのだが、ちょうどその時視界の中に、ビルの壁をロープを使ってスルスルと下りてくる清掃作業の男性が現れた。寒風をものともせずに、スパイダーマンのように軽快に下りてきた、、、。意味不明な句でスミマセン、、、。(2013年冬詠)

ふみしめて土やはらかき霜のあと

久米郡美咲町にある本山寺は、私の大切な吟行地の一つになってしまいました。時々行きたくなっては岡山での句会への道中に寄り道をしてしまいます。綺麗に手入れをされた境内の大地はいつ行っても優しく、靴を通した感触が柔らかく感じられます。掲句は昨年の初句会への道中で寄り道をした時の句、霜が降りては解け何日も人が歩いていない山中の境内の大地は、ことのほか優しく、柔らかく感じられました、、、。(2013年冬詠)

万両や小さく作る犬の墓

老犬アリスがとうとう死んでしまった。19歳、老衰だった。我家で生れ、我家で育ち、そして死んで行った。何日も餌を食べなかったせいか、紙のように軽く、小さくなっていた。庭の隅に小さな墓を作り埋めてやった、、、。我家には後三匹の犬が居る。アリスの姪とその娘のプードル、そして黒ラブのもみじ。犬だって最後まで見てやろうとすると、人間と同じように手がかかる。プードルはなんとかなるが、体重30キロの黒ラブとなるとなあ、、、。(2013年冬詠)

夜神楽のお面忘れし稲田姫

もう一句、備中神楽の一こまです。神楽に酒はつき物ですが、楽屋で出番を待っている間に飲みすぎて、お面をつけずに舞台に上がってしまった稲田姫です。これは神楽太夫をしていた父から聞いた話で、後楽園で見た神楽ではありませんので、念のため、、、。手力雄だったか稲田姫だったか猿田彦だったか稲脊脛だったかもあやふや、、、。(2013年冬詠)

亡き友を想ふ日溜まり小六月

小さな六月とはよく言ったものだ、と思いながら暖かい十一月の河原を歩いていたら小六誠一郎さんを想い出した。早いもので、もう一年が来ようとしている。入院先の病院から最後の電話を頂いたのが11月19日だった。「病院からですが、今日帰れることになりました」「そうですか、おめでとうございます」「それで、申し訳ないのですが、五の日句会のほうはもう少し休ませてください」「もちろん、体調が良くなってからでいいですよ。ゆっくり休んでくださいね」と、そんな会話を交わして切ったと思う。最後になるなんて、思っても見なかったから、、、。日溜まりのような笑顔と大きなお腹を想い出すが、俳句を離れると、きっと厳しい社長さんだったのだろう、、、。先日会社のあった場所を通ったら、通るたびに見ていた屋根の上の看板が、別の社名に変わっていた。わかっていた事だが寂しかった、、、。(2013年冬詠)

店員の語尾長かりし秋暑し

今年はいつまで暑いのでしょう。10月9日の句会での当日句です。前夜通り過ぎた台風24号の余波で朝から暑い日でした。Tシャツ一枚で歩いても汗が出てきました。暑くても食べる物は食べないと、と入った食堂での句です。エアコンの風が気持ちよかった。たちまち汗は引いて、A定食をしっかり頂きました、、、。ほんとうはそんなに長くはなかったのですが、狭い店じゅうに響くお姉さんの甘ったるい声に、ついこんな句を詠んでしまいました。ごめんなさい、、、。(2013年秋詠)

機関区に機関車多し秋夕日

9月11日の句会から-6 おまけです。句会を終えて駐車場までJRの岡山機関区を通って帰ります。大きな整備工場に夕日が当っています。工場の外には広い敷地に何本もの線路があり、整備待ちと思われる機関車がたくさんとまっています。どれも少し疲れて見えるのは、秋の夕方だからかも知れませんね、、、。これで9月11日の句会は終りです、、、。(2013年秋詠)

秋日濃し浮かびし亀のかふらにも

9月11日の句会から-5 さて、岡山に着きました。車を置いて川沿いに西川緑道公園をめざします。「秋暑し・・・」「秋の川・・・」「秋の水・・・」なんて、周囲を見ながら歩きますが、暑いだけで一向に思考がまとまらない。「ちょっと一休み」とフェンスにもたれて川面を覗くと、「うわっ、亀だ!大きい!」水草に乗っかるようにして30Cmほどの大きな亀が浮いていました。「外来種かなあ?甲羅の縁がちょっと黄色っぽいぞ」ともう少し詳しく見ようとすると、危険と思ったのか、亀はゆったりと水底に沈んで行きました。濡れた甲羅に光る日差がきれいだったなあ、と一句、、、。これで五句、ここから先は惨憺たるもので、あと二句無理やり造って出しましたが結果は推して知るべしで、ここでは割愛いたします。それでも何とか当日句で七句出しましたとさ、、、。(2013年秋詠)

トンネルの中は空洞秋の風

9月11日の句会から-4 トンネルだから空洞なのは当たり前ですが、53号線に出来た新しいトンネルを通っていて改めて空洞を感じてしまいました。大きくて、きれいで、明るい、快適なトンネルですがちょうど出たところに信号があり、要注意、、、。今までの旭川を見ながらのコースも、それはそれで気に入ったところだったのです、、、。これで四句、、、。(2013年秋詠)