冬鳶じろり見おろし過ぎにけり

俳句を始めてから鳥を観察する機会が増えましたが、その中で気付いたのが、鳥は人間が鳥を観察する以上に人間を観察しているということです。木の上、電線、屋根、ずいぶん離れていてもこちらが見れば確かに視線に反応するのです。まして鳶は高い上空から小動物に狙いを定めるぐらいの視力の持ち主です。上空から獲物を探していたが、冬の枯野には目ぼしい獲物が見当たらない。「やれやれ、何ていう日だ」と思っているうちに犬を連れた人間が歩いてきた。「どれどれ暇つぶしにどんなヤツか見てやろう」ぐらいのつもりで下りてきたのだろう。上を向いた途端にその鳶の鋭い見下した目と目が合った、、、。(2010年冬詠)

新しき杭が一本冬菜畑

毎日見て通る畑に杭が一本だけ立っていた。まだ新しいその色は、立てた人の意欲の現れのようでもあるが、さて何で一本だけなのだろう?と不思議に思った時の句。その後杭が増えて行って、春には豌豆の垣か何かが出来たのだろうが、その事はさっぱり記憶にない、、、。(2010年冬詠)

ふみしめて土やはらかき霜のあと

久米郡美咲町にある本山寺は、私の大切な吟行地の一つになってしまいました。時々行きたくなっては岡山での句会への道中に寄り道をしてしまいます。綺麗に手入れをされた境内の大地はいつ行っても優しく、靴を通した感触が柔らかく感じられます。掲句は昨年の初句会への道中で寄り道をした時の句、霜が降りては解け何日も人が歩いていない山中の境内の大地は、ことのほか優しく、柔らかく感じられました、、、。(2013年冬詠)

目覚むるはホテル小窓を打つ時雨

四国赴任中の句、あれから二年かと思うと懐かしい、、、。その四国でお世話になった方から年末に食べきれないほどのみかんが届いた。その方が昔津山でお世話になった方が私の近所で、そこにも届けて欲しいとのことなので持っていった。声をかけたが、玄関は開いているのに留守だった。四国からの手紙が入っているので分かるだろうと、玄関に置いて帰った。しばらくして今度はその方が家へ来られた。「届けてくれてありがとう。これは他からの貰い物だけど」と、林檎と洋ナシと純米酒を出された。私はみかんを200mほど運んだだけで、申し訳ないと思いながら、それも遠慮なくいただいた、、、。みかんを四国から我家まで運んでくれた、もと部下のN君、ありがとう、、、。(2011年冬詠)

冬ぬくし猫に開けおく通ひ道

岡山駅西口から駐車場へむけて路地裏を歩いていて見かけた景、通りに向いた板壁の下に小さな扉が開いていた。人間は通れない位置だから猫の道と勝手に推察した、、、。猫用に作る一般的な出入り口は、壁や扉の下部に押すとどちらにも開く小さなドアを付けるもの。一応風も防げるし便利だが、欠点は他所の猫まで入ってしまう事、、、。今の時代だから猫の首輪にセンサーを付け、愛猫だけを感知して開く自動猫の道を作ったら売れないだろうか、、、?(2012年冬詠)

しづり雪一つ動けば続けざま

今年の冬は寒く、雪も多いような予報で、確かに年末には終日大雪警報が出ていた日もあったが、結局このあたりの平地には一度も降雪のないまま年を越してしまった。ここに暮らしてずい分になるが、その記憶を辿っても思い出せないほど、珍しいと思う、、、。今日は小寒、いよいよ冬の最深部に入ったわけだが、今後はどうなるだろう。まさかこのまま春になる、なんてことはないだろうと思いながら、内心は期待している。寒さは苦手、、、。(2010年冬詠)

参道の炬燵の見ゆる土産店

毎年初詣に行く真庭市の木山神社、もともと山上にあった神社を麓に移したとの事だが、それでも境内の手前には五十段の石段、その手前には長い坂道の参道が続いている。参道の途中に一軒だけ昔ながらの小さな土産物屋がある。たぶん初詣の期間だけの土産物屋だろう、民家の入口が木枠で透明なガラス戸になっており、背の低い木製の陳列ケースが数個、棚に数種類に土産物が並んでいるのが見える。その陳列ケースの続きに狭い座敷があり、その座敷を占領するような大きな炬燵が用意されている。明々と灯りを点し、客と主か毎年同じように、店にはお構いなしに炬燵に背中を丸め、話しこんでいるのが見える、、、。その土産物屋の続きに納屋や牛小屋がある。牛小屋に牛はもういないが、毎年新しい小さな注連縄が飾ってある、、、。(2012年冬詠)

足見えぬほどに膨れて寒雀

近所にある道沿いのお宅、家の前の菜園の隅に植えられたピラカンサスが大きくなって、赤い実をたわわに付けている。なぜかそこに毎日雀がたくさんとまっている。実を食べているわけではない。おしゃべりは多少聞こえるが、ほとんどが同じ方向を向いて整然ととまっている。少し坂になった道とピラカンサスの間には用水が流れている。だから安全と知っているのか、私と犬が通っても平気でこちらを観察している。ふさふさの羽毛が温そうだ、、、。(2010年冬詠)