古くもなく新しくもない、と言った風情の住宅街だった。少なくとも見える限り通の両側は庭付きの普通の民家で埋まっており、農家らしい家など見当たらなかった。そんな中の通に面したシャッターの上がった車庫を覗くと、車ではなく大きなトラクターが入っていた。農家らしくない佇まいの家の車庫の中でトラクターは、「どうだ」と言わんばかりに、外車なみの存在感を見せていた。大きなタイヤには土が乾いていたが、、、。(2012年春詠)
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ゆるびつつ小川は春の音となる
私の生活圏にはたくさんの農業用水があります。大きさも形状もさまざまですが、どの用水も春になればしだいに水量が増えてきます。それにつれて水音も明るく軽やかになって来る、と思うのは春を待っている私の心ゆえでしょうか、、、?(2011年春詠)
凍ゆるむ鍵穴さぐる指先に
寒いのにわざわざ歩く必要も無いのだが、出来るだけ歩いて通勤することにしていた。冬は寒かった。手袋をしていてもジンジンする指先を、バッグを持ち替えてはかわりばんこにポケットに入れた。会社へ着いてからがまた大変で、凍える指先で鍵を握り、正門、通用口と開けていく。そんな季節を越えてふと感じた春の到来、急いで中に入りセキュリテーのロックを外すと、これは年中変わらない機械の中のお姉さんの「おはようございます」の美声、、、。(2011年春詠)
春寒やゆつくり灯る水銀灯
倉庫の高い位置に水銀灯があった。暗い中でスイッチを入れると、水銀灯はゆっくりと明るくなっていく。明るいような暗いような、という表現が良いのかどうか、水銀灯には独特の明るさがある。点るまでの時間はわずかなものだが、そのわずかな時間が春先の薄ら寒さを増幅するような感じがするのだった、、、。(2011年春詠)
内臓の重たし眠し春の風邪
たぶん会社で仕事中に詠んだ句でしょう、こんな句が、、、。退職してプール通いを始めて2年が経過しました。学生時代の部活よりも真面目に通っています。おかげさまで退職前よりもずいぶん元気になりました。退職前はいろいろと衰えを感じることが多かったのですが、その多くはプール通いで解消しました。風邪もひかなくなったようです、、、。(2010年春詠)
春疾風駐輪場をかけぬけし
掲句は2010年の作ですが、それよりもずいぶん前の話です。再開発で岡山駅前もずいぶん変わりましたが、まだ変わる前の駅前でのことです。道路わきにところ狭しと自転車が置かれていました。邪魔になるなあと思って見ながらあるいていたちょうどその時に、後から強風が駆け抜けて行きました。と同時に自転車がバタバタと将棋倒しに倒れてしまいました。あっという間の出来事で、ちょうど自転車を置いて離れようと手を離した男性が、自分の自転車を押さえることも出来ないほどでした。確かその日の夕方のニュースで春一番が吹いたと、、、。(2010年春詠)
蕗の薹ひとつふたつが良かりけり
一月の終わりに道の駅に寄ると蕗の薹が売られていました。いくらなんでも早すぎると思いましたが、どこ産とも確かめないで帰ってしまいました。たぶん農家で栽培された物なのでしょうね、、、。我家の裏の土手にも少しですが出てきます。少しですからありがたく頂きます。少しでも十分に春の味がします、、、。(2010年春詠)
農小屋の燻されてゐる畦火かな
若草山、後楽園、阿蘇山ほどではないが、近所の田圃の畦焼ももうもうと上がる煙が一帯を覆い、結構見ごたえがある。早く言えば大人の火遊びのようなもので、付いている人も内心は燃えすぎないかとヒヤヒヤしているのだろうが、一見得意そうに見える。迷惑なのは田圃の中にぽつんと建っている古い農小屋で、何も言いはしないが傾きかけた屋根の形がいかにも迷惑そうに見える、、、。(2011年春詠)
犬の鼻嗅ぎし所に犬ふぐり
気付けば咲いている花、犬ふぐり。この年は不覚にも犬に先を越された、、、。(2013年春詠)
三世代続く女系や梅の花
県北では梅ももう少し先になります、、、。とあるお宅の庭先にある古い梅でした。通りがかりにずいぶん楽しませていただきました。お家も立派な古い農家のつくりでしたが、建て替えられて洋風の洒落たお家になってしまいました。娘さんが結婚されて一緒に住まれるとのことでした。庭もすっかり洋風になって、あの梅の木はどこへ行ったのでしょう、、、?(2011年春詠)