一筋の人住む煙春の山

子どもの頃は、それぞれの家から立つ炊事の煙が、さようならの合図のような物でした。それがいつ頃までだったのか記憶に無いのは、たぶん成長して近所で遊ぶことが少なくなった頃と重なるからなのでしょう、、、。掲句、国道429号線を走っていて、遠くの山間に見つけた煙です。ああ、あんなところにも家があるのだ、と、、、。(2011年春詠)

親鳥のしつぽはみ出し鴉の巣

都会ではカラスが針金のハンガーで巣を作るとか、話題というか問題になっていますが、さすがにこの辺りでは小枝を使うようです。が、雑です。大丈夫なの?って言うぐらいスカスカでも平気なようで、下から見ると親鳥のお尻が半分ぐらいはみ出しているのです、、、。(2011年春詠)

声大き駅前タクシーうららけし

吟行の下見にと城東地区の古い町並を歩き、この辺りまでと決めて裏通りに入ると、普通に古びた裏町がある。水色のランドセルを背負った少女が三人、しゃがんで道端に咲いた花を見ながらおしゃべりをしていた。黙って通り過ぎようとすると、いきなり一人が立ち上がって「帰りました」と元気良く挨拶してくれた。あわてて「お帰り」と言ったが、いきなりだったので声の大きさで負けたような気がする、、、。掲句は閑谷学校吟行での集合場所、山陽本線吉永駅の駅前タクシーです、、、。(2011年春詠)

遠景に一両電車朝桜

吉井川の土手が散歩コースです。その散歩コースから田圃、さらに家並を越えて、姫新線の線路があります。家並が途切れた数十メートルの区間だけで走る列車が見えます。一両の時はコトコトコトコトといった感じで過ぎて行きます。見て楽しいのは長い列車、特別仕立てのきれいな長い列車が、これでもか、これでもかといった感じで過ぎていくのは見ごたえがあります。最近は美作建国1300年とかで、時々ナルト列車なるものも走っています、、、。(2010年春詠)

 

誘ひ合ふごとく水面の絲桜

衆楽園には、山口誓子が「絲桜水にも地にも枝を垂れ」と詠んだ枝垂桜があります。かつては見事な木で、私も何度か池まで垂れた花を見た記憶があります。が、傷んだからでしょうか、残念ながらこの木は短く剪定され、今はこの句の面影はありません。私が詠んだのは近くに植えられた若い枝垂桜です。もう少し、もう少し、といった感じで風に揺れていました、、、。俗に「桜切る馬鹿」と言いますが、枝垂桜も剪定には弱いように思います、、、。(2012年春詠)

俳談義めばるの目玉つつきつつ

小さな食堂を見つけて入った。入口も狭く、中も十人も入れないような広さだが、小奇麗で明るい。客は無く、そこそこ年配の夫婦が慌てて持ち場に散った。シェフは奥様、主人がウエイター、そんな洋風のお店で、黒板の手書きメニューから煮魚定食を頼んだ、、、。句会まで時間も無いので、俳句手帖をとりだして句稿の整理を始めると、ほどなく後から声がかかった。見ると上品そうな老婦人だった。「俳句ですか?」「ええ、午後から句会なんです」「まあ、いいですねえ」「俳句、されるんですか?」「ええ、私も明日吟行が、」から始まって、煮魚定食が出てきても話は続いた、、、。結局、句会への準備は出来ず仕舞だったが、この次もあの食堂へ行ってみようと思う、、、。(2013年春詠)

二階より望む燕のかよひ道

二階に限ったことではないが、高い所から眺める景色には心惹かれるものがある。二階より三階、三階より屋上と、高くなるたびに新しい景色が広がる。屋上まで来ると、それ以上は無理なので、翼が欲しいと思うようになる。叶わぬ夢、、、。掲句、我家の二階から眺めた燕の風景、虫を捕らえる時は自由に飛びまわっている燕も、それを巣に運ぶときは同じコースを通るようだ。空に道があるように、、、。(2011年春詠)

伸びきつて犬が寝てをり紫木蓮

天気の良い日の午後だった。何の用事だったか、通勤で通る道を昼間に通った。いつもは長い紐を伸びるだけ伸ばして吠える柴犬が、咲き誇る木蓮の木の下に寝そべっていた。通り過ぎる私を、前足の間に首を置いたまま、上目遣いに見ていた、、、。(2003年春詠)

小川にて終わるダム湖や桃の花

国道429号線を知ってからは、倉敷、総社方面へはほとんどこの道を通る。唯一狭いのが旭川ダム沿いの個所、片側がダム湖の曲がりくねった細い道。ここを抜けると、ダム湖へ注ぐ川沿いの広い道へ出る。川の水量はシーズンによるが、少ない時はダム湖同様ほとんど干上がっている。当たり前のことだが、ダムの終点は小川だった、、、。(2010年春詠)