投稿者: 牛二
うたたねの父のおとろへ春時雨
今日3月18日は父の命日。年末に入院、肺炎ということなのに一向に良くならない、おかしいなと思っているうちに病院から呼び出し、肺癌で余命一ヶ月と告げられた。掲句はその一ヶ月目ぐらいの頃の句。まだ差し迫った感じはなかったが、痛み止めの薬のせいか無防備に眠る父を見るのは辛かった。病室の明るい窓を春時雨が打っていた。(2003年春詠)
食堂に若芽売り来て磯香る
社員食堂には実演販売や物売りの類がよく来た。若布売りもその中の一つである。食堂の丸椅子に着くとすぐに用意してあったスチロール製の小さな容器が配られる。中にはポン酢を垂らした深緑色の若芽が入っている。口に運ぶと若布の香りと一緒に海の匂いがする。美味。ほんの半口ほどしかないこの味につられて、おばちゃんたちは次々と大量の生若布を買うことになる。(1999年春詠)
初蝶のまだ飛べずゐる庭の冷
春雪や単線電車灯し来る
真冬に降る雪よりも春の雪のほうが記憶に残るのはそのはかなさからだろうか。掲句は姫新線の院庄駅と美作千代駅との間、降りしきる雪の中を、前照灯を灯した電車が大きくカーブしながら近づいて来るのが見えた。まるで映画のワンシーンを見るようだった。※姫新線は電化されていないので、本当はディーゼル車です。(2000年春詠)
春の堰マイナスイオン溢らしむ
ごみ出しに眩しき春の日の角度
ごみ出しの仕事は定年後に仰せつかった訳ではない。ずいぶん日の出が早くなったとも思うが、毎日が日曜日の生活で、起きるのが遅くなったのも事実である。ごみ置き場までは車で数分の距離、東にむかう運転席の、ちょうど真正面から受ける朝日は眩しい。(2012年春詠)