糸で張る鯛の尾頭お正月

初祓は拝殿の最前列、できれば中央に陣取ります(そのほうがご利益がありそうな気がするのですが、実際はそんなことはありません)。その前に細長くあるのが幣殿です。拝殿より一段高くなっています。左側に大きな太鼓、右にお供えの酒樽などが並んでいます。ここの中央で神主が太鼓を響かせ、朗々と祝詞をあげます。さらにその先に階段があり、御神体が安置されている本殿があります。本殿の前にはお供えが並んでいますが、何と言っても目に付いたのが大きな鯛です。よく見ると大きすぎて形が整わなかったのか、頭と尾が糸で張ってある。これは新しい発見!と句にしたのがこの年のお正月でした、、、。毎年行きますが、糸で張られるような鯛があったのはこの年だけでした、、、。(2003年新年詠)

一列に並ぶ湯宿の雑煮かな

謹んで新年のお慶びを申し上げます。今年こそ良い年でありますように!まだ子どもが小さかった頃、国民宿舎だったか、そのような大衆的な温泉宿だったか、で正月を迎えたことがあります。部屋も古くて狭いし、たいして景色が良かった記憶もありませんが、それでも満足できた若さのあった頃でした。そんな宿ですから、朝食は大広間へ食べに行きます。何が出るかと楽しみにしていたら、流石にお正月、ちゃんとお雑煮が出てきましたよ。掲句はその時を思い出して作った句です、、、。(2003年新年詠)

夏草を広げ大きな猫寝まる

ほど良い木陰の夏草を押し広げたようにした真中で、大きな猫が眠っていた。私や犬が通ろうが我関せずの眠りっぷりはボス猫と見た。ボス猫の命は短い。日々縄張りの見回りをし、さらに縄張りを広げるべく遠出をする。遠出をすれば国道も渡らなければならない。必然的に危険が増すのである。まあ、そればかりではあるまいが、早ければ数ヶ月で交代となる。掲句の猫、いつまでボスでいたかの記憶は無い、、、。(2003年夏詠)

蝉鳴いていよいよ暗し杉木立

今年の初蝉は七月六日でした。いつもの散歩道の桜並木の土手です。もう梅雨が明けますね、というのが毎年この土手で聞く蝉の声ですが、その通り七月八日に梅雨が明けました。掲句の杉木立は別の場所ですが、土手の桜並木もこの時季は結構暗いです、、、。(2003年夏詠)

羽音して鳩の一群夏の暁

今日から七月、梅雨明までもう少しだろうか、、、。涼しいうちを狙って散歩に出た梅雨明の早朝、右に吉井川の河川敷、左に青田が広がる土手の上には朝の冷気が溢れていた。途中に砕石場があり、運び込まれた土砂が山になっている。夏草に覆われたその山陰から突然力強い羽音がして鳩の群が現れた。群は三十羽ぐらいはいただろうか、羽音を響かせ、頭上を越えたあたりで大きく円を描き、そのまま青田のかなたへ消えて行った。ほんの僅かな間の出来事だったが、夏の朝を感じる出来事だった、、、。(2003年夏詠)

昼灯す観光バスや梅雨曇

会社の用水路を隔てた横を中国自動車道が通っていた。自動車道は少し高い位置にあるが、防音壁も無く、植栽越しに走って行く車が見えた。特に背が高いトラックや観光バスはよく見えた。見ようとして見るわけではないが、休憩時間に外に出て自然を眺めると、必然的にそれらの車が眼に入るのだった。どんよりとした梅雨曇の空の下を、何台もの観光バスが室内灯を灯して通って行った。普段は目立たないバスが、室内灯のせいで華やいで見えた。バス旅行もいいなあと思いつつも、せっかくの旅行なのにこの天気ではなあと思うのだった。天気予報は雨、、、。(2003年夏詠)

紐引いて犬すれ違ふ夕薄暑

犬と散歩をするようになってずい分になります。今は黒い大きなラブラドールですが、最初は白の小さいプードルでした。プードルは小さいのに気が強く、自分より大きな犬にも構わず吠えました。恥ずかしいぐらい吠えるので、いつもリードを引いてそそくさとすれ違っていました。ラブラドールは静かで、生まれてこの方数えるほどしか吠えたことがありません。もちろん他所の犬とすれ違っても同じです。だから飼主としては得意で、申し訳無さそうにしている人ににこやかに挨拶をして、ゆっくりと通り過ぎるのです、、、。(2003年夏詠)

狛犬にゆれる木漏日樟若葉

どこの神社に行っても何となくパワースポット的な感じがして、身が引締るような気がします。大きな楠木も付き物でよく眼にします。大きな楠木の上には梟が住んでいたりするのですが、昼間はいたって静かな梟は眼を閉じてうつらうつら、狛犬に木洩れ日がゆれていたりするのです、、、。夜は一転、行くのを躊躇してしまいます。狐が住んでいるような噂や、その狐に若い娘さんがだまされたような話を、土地の古老はまことしやかにするのです、、、。(2003年夏詠)

夏燕速度落とさず路地抜ける

いつもの通い道の、家一軒分を近道する路地です。路地を抜けると国道、すぐ目の前に信号があります。赤信号も燕には関係なく、路地に入った速度のそのままで、一気に国道を渡って行きます、、、。燕は好きな鳥の一つです。句にもなり安いので、やたらと同じような句を詠んでしまいます。そんな句の一つです、、、。(2003年夏詠)