海風を孕み岬の鯉のぼり

鷲羽山の展望台からの三百六十度の眺めはすばらしかった。鶯が鳴き、眼下には空と同じ青さで海が広がっていた。どちらかと言えば高いところは苦手だが、この景色には満足。五匹の鯉のぼりが腹一杯に海風を孕んで泳いでいた。(2012年春詠)

のどけしや名物婆が干物売る

下津井漁港思いのほか早く着いたので、待ち合わせまでの小一時間に下津井の町を歩いた。駐車場に車を置いて歩き始めるとすぐのところにあるお店。テレビ放送ですっかり有名になったようだが、名物お婆さんは相変わらず魚の干物を売っていた。昼近い平日の漁港は長閑そのものだった。(2012年春詠)

触れし木に命の温み木の芽風

裏の柿の木が芽吹き始めました。この木も家族と一緒に借家の庭から引っ越してきたものです。植えた位置が悪く、大きくなるに連れいつも同じ辺りに触れるようになりました。いつの間にかその部分の表面が滑らかになり、何とも触り心地が良いのです。そんな柿の木に触りながら枝を見上げていると、ふと命というものを感じるのです。(2012年春詠)

春の海浚渫船の重さうに

十二月、一月と退職までの二ヶ月間を阿南(四国)で過ごした。普段は山の中で暮らしているので、とにかく海を見ておこうと思い、行き帰りには暗くても必ず与島パーキングエリアに立ち寄り海を眺めた。平日の朝は海の見える阿南公園に登った。天気が良さそうだからと、休みをとって室戸岬まで走ってみたりもした。そんな中で手帳に書きとめた句、すなわち冬に出来た句。満を持して句会に出したら先生に「一読して<海凍てて浚渫船の重さうに>じゃないかと思いました。」と言われてしまった、、、。慰めの言葉はいらないのです。スミマセン反省しています。げに恐ろしき俳人富阪宏己先生。(2012年春詠)