<その5>二階にある駅の改札口を出て階段を降りると、すぐに予約しているホテルの明りが見えました。黄昏たビジネスホテルといった佇まいでした。一泊素泊まり4,500円の部屋なので、禁煙の選択肢もなく大して期待もしていませんでしたが、案の定部屋に入った途端に、ヤニの臭いで息が詰りそうでした。幸い窓が開く造りだったので開けると、四階の道路に面した窓には、街の雑音と共に気持ちのよい夜風が入って来たのです。とりあえず窓はそのままにしておいて、フロントで聞いた近くのコンビニへ食料の買出しに出かけました。ついでに缶ビールも、、、。(2012年夏詠)
カテゴリー: 2012
夏の夜の軋みて止る京津線
<その4>関西には読みにくい地名が多いですね。今回では「御陵」(みささぎ)とか、「膳所」(ぜぜ)とか。地名ではありませんが「京津線」(けいしんせん)とか、、、。御陵で乗り換えて、京津線で浜大津へ。電車は信号待ちらしく、浜大津の手前で止まっていましたが、動き出した途端にぐぐぐっと大きく右にカーブしました。まるで交差点で信号待ちをしていたバスが右折するような、電車では経験したことのない動きでした。そしてそのままゆっくりと浜大津駅に滑り込み、大きく軋みながら止ったのです。(2012年夏詠)
風さつと吹いて五月の夜の電車
<その3>やっと駅に着きました。とりあえず一息ついて、姉夫婦に別れを告げます。行先掲示板を眺め、切符を買って自動改札口へ。ちゃんと通れるのかと不安になりながら、切符を投入口に。あっという間に吸い込まれた切符は、既に向こうにちょこんと覗いています。やれやれ。路線表示を確かめながらホームへ。ほどなくしてサッと風が吹き、風を押すような形で電車が入って来ました。(2012年夏詠)
三条の橋より望む川床明り
<その2>川床は場所によって「かわどこ」と言ったり「ゆか」と言ったりするらしい。賀茂川沿いに並ぶ川床の明りを三条大橋の上から眺めました。どちらかと言うとまだ空の明るさのほうが勝っている中で、明りははんなりとした京都らしい華やかさを見せていました。川床から一段低い河川敷の薄暗がりの河岸には、多くのカップルが等間隔に並んで腰を下ろしているのが見えました。そこには、暗さと共に華やかさを増していく川床や川面とは、別の世界が形成されているように思えました。かぐや姫の歌「加茂の流れに」を思い出したりしました。(2012年夏詠)
人波に残され一人街薄暑
京都での結婚式の後大津で一泊、三井寺と義仲寺を歩きました。その時の句を書きますので、しばらくお付き合いください。<その1>姉夫婦が同じ三条から電車に乗ると言うので、「じゃあ連れてってよ」と後にくっついて式場を出ました。姉は昔京都に居たので道に詳しく、今も大阪暮らしで雑踏にも強いのです。私は田舎道を歩くのには慣れていますが、雑踏には弱い。それにお酒も少々、、、。おのずと結果は見えていて、「これが河原町通りで、こっちに行くと・・・」と説明してくれる姉の言葉は上の空で、二人の後姿を見失わないようにするのが精一杯なのでした。五月の暑い日の夕暮れでした。(2012年夏詠)
くろ猫の眼の浅緑麦の秋
いつもの散歩コースに見つけた麦畑。おまけに黒猫までもがこちらを見ている。猫は犬と違い黙ってこちらを観察するだけで、決して挨拶はしてこない。こちらもあえてちょっかいは出さないが、なんとも見事な眼をした黒猫だった。(2012年夏詠)
時々は甕の目高のさわぎけり
庭を掃いていると、時々水のはねた音がする。あれっ、どの甕かな?と見渡しても、どの甕の目高も静かに泳いでいるのです。またしばらく掃いていると音がする。今度こそ、と思って見るが、やっぱり静かなままなのです。こんなふうに今の私に時間は流れていきます。(2012年夏詠)
ががんぼを抓んで放つ夜の闇
夜の静けさの中で机に向かっていると羽音がする。見ると大蚊が蛍光灯にぶつかりぶつかりしている。逃がそうとすれば必ず足の一本や二本は取れ翅は痛んでしまうので、果たして助けることになるのかどうか、と思いつつ抓んで窓を開けると、そこには夜の闇があるのだった。(2012年夏詠)
ぼうたんのゆれて百とも二百とも
行く春の潮目に白き波頭
また続きです。句会では初めてMさんにお会いしました。Mさんの句はいつも拝見しながら、どんな方だろうと思っていました。正直なところ、少し気難しい方かなと思っていたのですが、そうではありませんでした。やさしそうな年配の方でした。Mさんのコーヒー、Kさんの柏餅、そしてH女史の御薄と、いたれりつくせりの句会ではありました。満腹、いや満足して帰途につくことができました。作者はどんな方だろうと、想像しながら鑑賞するのも俳句の楽しみの一つですね。(2012年春詠)