よしきりや野にある墓のみな光り

川べりの墓地に立つ木の中からギョギョッシ、ギョギョッシと頻りに鳴くヨシキリの声。土手の上から眺めると、ちょうど日差が墓石に反射して眩しい。昨年の春の俳句帖に書いている句。今年は早くから暑くなったのに、まだヨシキリの声を聞いていない、、、。(2017年春詠)

街騒の音の後に暮の春

石段を上り振り返ると遠くまで甍の波が広がっている。車の音、クラクションの音、途切れることのないざわめきが街の底を這うように聞えて来る。あふれる日差に甍は光り、その向こうにある山は半ばかげろうように見えている。明らかに夏は近い。阿智神社にて、、、。(2017年春詠)

陽炎や電車揺れつつ現るる

遮断機が下りてずいぶん経ったような気がする。はるか向こうで緩やかにカーブした線路に電車が現れる。日差を反射して光る線路に陽炎がたっている。電車はその陽炎の中を揺れながらゆっくりゆっくりと近づいて来るのだが、そう思うのは私だけで、通過する電車の速度は意外と速い、、、。(2017年春詠)

益荒男の今も負けん気葱坊主

大正十三年生まれのMさんと句会でご一緒するようになって一年が過ぎた。お元気でいつも格調高い句を詠まれ、とても九十を過ぎている方とは思えない。俳句にも生活にも常に前向きで、いつも良い刺激を貰っている。ああいう風に生きられるなら年を取るのも満更悪くはないかも知れない、、、。(2017年春詠)