河原を歩いていると、いきなり大きな鳥の影が目の前を過ぎって驚かされることがある。見上げると意外な近さに翼を広げた鳶の姿があり、じろりと睨まれたりする、、、。(2013年春詠)
けむり立つ城の裏側花は葉に
花時の終わったお城山を裏側から見上げると、ごみを焼いているのだろう、そびえる石崖の上に煙がひとすじ上がっていた。石崖の縁に見えていた雪洞は既に無く、桜の木は花から葉へと一斉に色を変えつつあるのだった、、、。(2012年春詠)
塀越しに見ゆる家紋や桃の花
古い街道脇の立派な土塀の上に桃の花が鮮やかな色を見せている。古そうな家だなと思いながら、塀の上から覗いてみると、玄関の長押のところに大きな家紋が見えた。玄関の家紋はそれまでに見たことの無い光景だったが、土塀、桃の花、家紋の取り合わせがいかにも日本的で印象に残った、、、。(2012年春詠)
芝青む人の通はぬところより
書こうと思っているうちに芝青むの時季は過ぎてしまいましたが、芝って強いですね。踏まれても踏まれても、アスファルトの舗装の下になっても、やがてアスファルトを割って芽を出してくるのですから、、、。(2013年春詠)
川渡る風に道ありつばくらめ
鶴山公園の東を流れる宮川は両岸に遊歩道が整備されており、昼間は少ないですが時々散歩している人を見かけます。上手に稲荷橋、下手に大橋の二つの橋がありますが、面白いことにその中ほどの川の中に飛び石が配置されているのです。水が出れば渡れませんが、そうでなければ、昔に戻ってちょっとスリリングな気分が味わえますよ、、、。掲句はその宮川の上を飛ぶ燕、見ていると何度も同じコースを通っている。きっと空にも飛びやすい所があるのだろう。風が心地よい、、、。(2012年春詠)
苜蓿に座して男の手弁当
これは通りがかりに見かけたベテランの男性の昼食風景、道路工事の現場に続く土手のクローバーにどっかと一人腰を下ろし、大きなランチジャーの弁当を広げていた。風が気持ちよさそうだった、、、。(2012年春詠)
新社員足に慣れないハイヒール
普段の暮らしの中でスーツ姿の女性といえば、図々しくやってくる薹の立ったセールスレディーぐらいのものだから、たまに行った岡山の街中でいかにも新入社員と言った感じのスーツ姿の女性を見るとすごく新鮮な印象を受ける。慣れないハイヒールのぎこちない、それでも颯爽と前を向いて進む姿には、思わず「がんばれ!」と言いたくなってくる、、、。(2013年春詠)
つばくらや窓広々と外厠
厠の話で恐縮です。まだ新しい某施設に併設されたトイレ、窓に向かって並んだ男性用の上部が一面のガラス張りでした。燕の舞う青空を見ながらのひと時、男冥利につきるなあ、、、。(2013年春詠)
町中のミニコンサート鳥の恋
西川緑道公園を抜けて句会へ行くと、途中の広場でオカリナのコンサートに出くわす事がある。一度アンケートを求められた市の職員の方に聞いたら公民館活動の一環との事だった。お揃いの服で寒いときも暑いときも活動されている。掲句は、おかげで何句か拾った中の一句、鳥は自分たちの事に夢中で、コンサートには興味が無いようだ、、、。(2013年春詠)
山よりも高き鉄塔霞みけり
山の中で過ごした小学生の頃に送電線の工事があった。通学路の頭上を横切る形で、V字型の谷の両側の山に鉄塔が建ち、やがて送電線が張られて行った。ちょうどその工事の時だったのだろう、学校の帰りに上を見ると、その頭上数十メートルの送電線に人の姿があった。どういう形だったかまでは覚えていないが、ドキドキしながらサーカスの空中ブランコでも見るような気持ちで眺めた。それ以後何年も、そこを通る度にまた見えるかも知れないと期待したが、結局実物を見たのはその一度っきりだった。時々テレビで同じような工事の場面を目にするが、この時のようにはドキドキしない、、、。掲句、本当は鉄塔が山より高い訳はないのだが、、、。(2009年春詠)