行く春の潮目に白き波頭

また続きです。句会では初めてMさんにお会いしました。Mさんの句はいつも拝見しながら、どんな方だろうと思っていました。正直なところ、少し気難しい方かなと思っていたのですが、そうではありませんでした。やさしそうな年配の方でした。Mさんのコーヒー、Kさんの柏餅、そしてH女史の御薄と、いたれりつくせりの句会ではありました。満腹、いや満足して帰途につくことができました。作者はどんな方だろうと、想像しながら鑑賞するのも俳句の楽しみの一つですね。(2012年春詠)

海風を孕み岬の鯉のぼり

鷲羽山の展望台からの三百六十度の眺めはすばらしかった。鶯が鳴き、眼下には空と同じ青さで海が広がっていた。どちらかと言えば高いところは苦手だが、この景色には満足。五匹の鯉のぼりが腹一杯に海風を孕んで泳いでいた。(2012年春詠)

のどけしや名物婆が干物売る

下津井漁港思いのほか早く着いたので、待ち合わせまでの小一時間に下津井の町を歩いた。駐車場に車を置いて歩き始めるとすぐのところにあるお店。テレビ放送ですっかり有名になったようだが、名物お婆さんは相変わらず魚の干物を売っていた。昼近い平日の漁港は長閑そのものだった。(2012年春詠)

触れし木に命の温み木の芽風

裏の柿の木が芽吹き始めました。この木も家族と一緒に借家の庭から引っ越してきたものです。植えた位置が悪く、大きくなるに連れいつも同じ辺りに触れるようになりました。いつの間にかその部分の表面が滑らかになり、何とも触り心地が良いのです。そんな柿の木に触りながら枝を見上げていると、ふと命というものを感じるのです。(2012年春詠)

洗濯の終る音して春の月

電子音のするもの、洗濯機、冷蔵庫、湯沸しポット、炊飯器、体重計、、、、。先日も突然鳴り出したピーピーという警戒音に、二人して探し回ったが、とうとう何の音だか分からずじまいになってしまった。結果として何事も起こらなかったので良しとした。この洗濯機は二十年物で、たえずガタガタと大きな音をさせながら働いているが、終ったときには優しい静かな音がする。早く言えば、間延びした一時代前のデジタル音ということだが。(2011年春詠)

惜春や熱きシャワーを満面に

若かったね、と自分に対して思う。歳をとるなんて事は考えてもみなかった。サッと泳いで、サッとシャワーを浴びて、サッと帰っていたのは当時の事。今はゆっくり泳いで、ゆっくりジャグジーにつかり、ゆっくりシャワーを浴びて、ついでにシャンプーまでして、体重と血圧を測って帰る。とにかくクールダウンは重要で、熱きシャワーなんて持っての他なのである。(1998年春詠)

メーデーや事務所に残す電話番

携帯電話の普及でこういうこともなくなったであろうし、メーデー自体もずいぶん変わったと思う。積極的に組合活動をしたほうではなかったが、どうしても逃れられずに役員をしたこともあった。戸の開け閉めにも苦労するようなプレハブの組合事務所には、大きな電気ポットがあり、各種のカップ麺が常備されていた。もうもうと立つ紫煙の渦と、輪転機のインクの匂いと、若さだけはあった。(2002年春詠)