そこここに、間近に、鶯の声がする。下津井から鷲羽山へ、句友の後を離されないように走っていた時の句、、、。(2012年春詠)
カテゴリー: 2012
現れし祖父若々し春の夢
私の祖父は木炭の検査員という仕事をしていました。退職後の晩年は自分で炭を焼いていました。私も多少は手伝った記憶があるのですが、それよりも炭焼き小屋で遊んだ記憶のほうがたくさんあります。火を入れた窯の真っ赤に焼けた焚き口で焼きいもを作ると最高に美味しくできました。たぶん陶磁器を焼く窯でも同じではないかと、釜場の俳句を読む度に私は不謹慎なことを考えてしまいます、、、。そんな祖父が、なんの拍子か夢に出てきました。それも自転車の後に私を乗せてあちこち連れて行ってくれていた頃の若い姿でした、、、。(2012年春詠)
誘ひ合ふごとく水面の絲桜
衆楽園には、山口誓子が「絲桜水にも地にも枝を垂れ」と詠んだ枝垂桜があります。かつては見事な木で、私も何度か池まで垂れた花を見た記憶があります。が、傷んだからでしょうか、残念ながらこの木は短く剪定され、今はこの句の面影はありません。私が詠んだのは近くに植えられた若い枝垂桜です。もう少し、もう少し、といった感じで風に揺れていました、、、。俗に「桜切る馬鹿」と言いますが、枝垂桜も剪定には弱いように思います、、、。(2012年春詠)
雨音の春雷までも連れて来し
春雨だとのんきに構えていると、突然大きな音がし、大地を震わす。春雷だ、と驚いたのは一度っきりで、後はまた静かに雨が続くのだった、、、。(2012年春詠)
平和とは何もなきこと春落葉
無理やりここまで来た感じですが、やっと一年になりました。おりしもその日が3.11とは、、、。俳人の多くの方が震災を詠まれています。私も何句か詠みましたが、どうしても上滑りな句になってしまい、長続きしませんでした。結局震災に関しては、言葉にするよりも心の中で祈ることのほうが私には向いている、というのが勝手な結論です、、、。それはともかく、一年間お付き合いいただき本当にありがとうございました。心よりお礼申し上げます。読んでいただけることが何よりの励みで、今日まで続けることが出来ました。さて、これからはどうするか、と言うと、引き続き書いていくつもりではおりますが、そろそろネタ切れになってきました。ある日突然途切れてしまうかも知れませんが、その時はご容赦ください、、、。今後ともよろしくお願いします。(2012年春詠)
蔵の窓いづこも小さし風光る
吟行の集合場所、早島駅近くでの句。早島は初めてと思っていたのに、駅前の景観にどうも見覚えがある。そう思って考えていたら思い出した。確かに七、八年前に一度仕事で来たことがあった。もう少し春の進んだ頃で、ひどい雨の日だった。駅前から延びる広い道路が工事中でぬかるんでいた。駅も工事用のパネルで囲われていたように思う。たいした仕事ではなかったので忘れていたが楽しい内緒の秘密めいた仕事でした、、、。(2012年春詠)
朝日受く寒雲仏とも見えて
だいぶ日の出が早くなってきて、散歩の時刻にちょうど赤く染まった雲が見えるようになった。太陽はまだ山の向こうで、山は暗く、その上空だけが輝いている。そんな中で赤く染まった雲が、まるで仏像のように見えることがある。輝いた空がちょうど光背のようになり、なんとも神々しい姿に見えるのである。(2012年冬詠)
寒鯉をゆるべてすくと老釣師
今日は春を思わせる良い天気だった。かの老釣師、ちょうど立ち上がったところに出会ったので話しかけてみた。「釣れますかあ?」「ぼちぼちなあ、60センぐらいあったかなあ」(60センは60Cm)「この前は90セン、提げたら尻尾が地に着いてなあ」「釣れたら楽しいですねえ」「冬じゃからなあ、11月から10匹ぐらいは釣ったじゃろうか」「へえ~10匹もおっ」「全部ゆるべてなあ」(ゆるべる=放す)<老釣師、放す仕草>、、、。10匹もとは言ったが、考えてみると90日で10匹ということは、9日で1匹、あとの8日は冬の岸辺にじっと座っておられるわけだ、、、。(2012年冬詠)
犬猫に鴉にとんび寒施行
来るもの拒まずの寒施行ですが、鳶はお腹が空いていても自分の翼が引っかかるような所へは下りてきません。というのは前ぶりです、、、。もうずい分前の冬のことになりますが、「とんびに油揚げをいただいた」ことがあります。河原を散歩していると、土手の上で鳶が三羽争っているのが見えました。「おいおい、喧嘩はやめなさい」と、通り過ぎようとしたとき、一羽が黒くて長いひも状の物を掴んで飛立ちました。続けて二羽も飛立ち、空中でしばらく争っていましたが、とうとうそのひも状の物を放してしまいました。あ~っと言う間もなくそれは岸辺の枯茨の中へポトン。三羽はそのまま川を越えて飛び去って行きました、、、。黒くて長いので蛇だろうと思いましたが、生来の怖いもの見たさで見に行くと、なんと大きな鰻ではありませんか!前ぶりの通り、鳶は枯茨には近づかないのは知っていましたが、念のためそのままにして散歩を続け、帰りに見るとやはりそのままでした、、、。で、なぜかポケットにレジ袋があったので、遠慮なくいただいて帰りました。捌いてその日の夕食に。もちろん犬にも猫にもお相伴を、、、。長さ55Cm強、油ののった鰻でした。なぜあの時季に鰻なのか、未だにわからない、嘘のような本当の話です、、、。(2012年冬詠)
下町に音のいろいろ花八手
機関区の周りに多いのは、やはり鉄道関係の会社や工場ですが、それ以外にも小さな町工場がたくさんあって、いろいろな音が通りに漏れてきます。突然シューッと音がして、道路脇の溝に伸びたパイプから蒸気が噴出したりすることも、、、。(2012年冬詠)