昨年の暮から毎日、同じ場所で鯉釣をしている老人がいる。よく知っている人なので、挨拶をして釣果を聞いてみたいと思いつつ、人を寄せ付けない、水面の一点を見つめているその姿に圧倒されて、黙って静かに通り過ぎてしまう、、、。(2010年冬詠)
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つごもりの氏子が囲む大焚火
どこの神社にでもある風景です、、、。大晦日までお付き合い下さいましてありがとうございます。一年間は切らさずに、と思って書き始めたブログです。何度かトラブルはありましたが、皆様の励ましに助けられ、ぼちぼちゴールが見えてきたような気がしています。本当にありがとうございます。良い年を迎えられ、またお付き合い下さいますよう、お願い申し上げます。(2002年冬詠)
店奥の蕎麦打つ音も年の内
「そば切り」というのは備中地方の物なのでしょうか。そば粉十割で作る自家製だから、必然的に切れやすく、太さも長さもバラバラと言うのが「そば切り」でした。年越し蕎麦もこの「そば切り」で、肉はかしわ、野菜たくさんの煮込み蕎麦、子どもの頃にはたいして好きでもなかった味ですが、今となっては懐かしく思い出します。最近はお店で食べさせてくれるところもあるようなので、一度食べてみたいと思っています、、、。どちらかと言うと「うどん」派です、、、。(2010年冬詠)
すす逃の床屋の椅子に沈没す
もう四十年近く同じ理髪店に通っている。通っていると言っても、そろそろと思い出してから腰を上げるまでに一ヶ月ぐらいかかるから、せいぜい年に四、五回ぐらいだろうか。「ずいぶん伸びましたねえ」「どれくらいになるかなあ」「三ヶ月、越えましたよ」と皮肉たっぷりに三ヶ月を強調して言われる。会話と言えばそれぐらいで、後は黙って至福の時間に浸れるのがこの理髪店の好いところで、多少高額だが迷わず通っている、、、。そんなだから11月ぐらいから、「来年も来てくださいね」「よいお年を」と挨拶を交わして帰ることになる、、、。(2011年冬詠)
神木の朽ちたる幹に注連飾る
木はいつの時点で神木となるのだろうか。神社の境内や神域に生えればすべてが神木かというと、そうでもない。何かの曰く付きの木は別にして、神社の境内や神域に生えた一般の木は、ある程度(たぶん人間の寿命ほど)年数を経て、見た目が立派になった時点で、何かの拍子で神木になる、、、。「おいおい、余ったからゆうて、注連縄あ勝手に張っちゃあいけんで。また神木が増えとるがな。神木になったらなあ、もう切るわけにゃあいかんからのう、後々まで困るで。」とは近所の長老の言葉、これが何かの拍子の正体らしい、、、。確かに神木を切って事故にあった話はよく聞く。触らぬ神に祟りなしで、とにかく古い注連縄は取り替えて新年を迎えるのが役員の仕事、、、。掲句の大きな神木、老朽化で危険なため近年クレーン車を使って伐採された。もちろん、お祓いをした上で、、、。(2001年冬詠)
初雪や畝真つ直ぐに葱畑
葱畑も冬の季語ですが、確信犯ですのでご容赦を、、、。畑にも作られる方の性格が表れますね。きっちりと作られた畝に、きっちりと植えられた葱、それだけでも感心するのですが、それが初雪の白さの中で、よけいにきっちりとして見える。プロなんです、この方は、、、。今年の初雪は12月9日でした。10Cmぐらいは積っていたでしょうか。(2002年冬詠)
缶蹴つて少年通る十二月
「あれっ、こんな句がある」とノートから見つけた句。詠んだ時のことはさっぱり記憶にないが、十二月の句だからこのあたりに入れて置かないと、また埋もれて忘れてしまうだろう。ちょっと得をした気分、、、。(2002年冬詠)
街さびれ響く聖歌のなつかしき
日曜日、久しぶりに古いアーケード街を歩いてみた。人通りも少なく、開いている店も少ない。暗い。時たま明るくなるのは、取り壊されて青空が見える所、駐車場になっていたり、ブルーシートがかけられ重機の腕が伸びている、今まさに工事中のところ、、、。あの店はどうなったかな、と記憶の中にある店を探して歩いてみた。ずいぶんお世話になった本屋さん、この辺に画廊があったなあ、相変わらずいい匂いのモダン焼き、一軒だけになったパチンコ屋からはカラカラカラカラと玉の流れる音がしていた、、、。(2012年冬詠)
一葉忌活字にもある女文字
学生時代に文学座の公演の大道具を組み立てるアルバイトをしたことがあります。給料は無しで、代わりに公演を見せてもらえるというのが条件で、文学少年にはもってこいの話でした。その文学座の公演が樋口一葉の「にごりえ・たけくらべ」でした。大道具を組み立てるのは見事な熟練の技で、言われたとおりに物を運んでいるうちに終ってしまいました。あとは舞台に合わせてのリハーサルを見ながら本番を待ちます。若い男優が何度も何度も、位置を変えては発生練習をする姿が印象的でした。杉村春子さんや荒木道子さんは本番で見ただけです。着物姿の杉村春子さんが蛇の目傘を開いて、舞台を下がったところで幕、その片手で傘を開く姿の粋だったこと、、、。(2012年冬詠)
鋤きこみし落葉大地の糧となれ
今年は落葉に負けないように掃いた。こんなにも日々刻々と落葉するものなのだと感心した。風にも負けないように掃いた。朝のうちに必ず風の止む時間があるのも発見した。そんな落葉を庭の小さな畑に埋めた。大地に返してやるのが一番だろう、、、。(2012年冬詠)