消防の始業点検柿若葉

柿の若葉がきれいな季節です。近くにあった消防署も移転し、始業点検の声や音が聞えることは無くなりましたが、柿の木は年毎に育ち、若葉をつけています。始業点検は午前8時30分だったと記憶しています。点検のために鳴らされるサイレンの瞬間的な音が引き締まった掛け声によく合って、聞えてくる我家までが引き締まるようでした。(2002年夏詠)

子目高のピリオドほどが泳ぎけり

ディスプレイに向かうと老眼のせいか、入力したのがピリオドなのか、はたまたカンマなのか、見分けが付かないことがあります。薄暗い甕の中の、生れたばかりの目高は、ちょうどあの大きさなのです。目を凝らして見ると、確かに動く点がいるのです。(2009年夏詠)

牛鳴いて植田の空の光り初む

日本で一番美しいのがこの季節ではなかろうか。前日に代掻きの終った朝の代田に映る空や山や家々の風景。そして田植が終わり植田となって数日間の田に朝の光が射し始める時の風景。これに勝るものは無いのではないだろうかと思う。今がその時。(2010年夏詠)

ふりむけば夏の空ある机かな

細長い事務所の端っこ、窓を背に全体が見渡せる場所に机を置き、仕事に専念する毎日だった。と言えば聞こえは良いが、それだけではない。後を見れば窓がある。窓の向うには空が広がっている。後を向いて考え事をしている、と見えて実はこんな俳句を作っていたことを女子社員のIさんは知っていただろうか。(2009年夏詠)

睡蓮の下は林のごときかな

群生した睡蓮の下はどうなっているのだろうか。地上の林のように茎が林立し、葉の間から日差しが漏れて来るのだろうか。我々が林の中を歩く時のように、魚たちは頭上の光を感じながら、茎の間をさまよっているのだろうか。(2010年夏詠)

万緑やカヌーに紅き救命衣

国道53号線を岡山へ向かうと、福渡あたりの旭川で良くカヌーを見かける。私は門外漢だが、カヌー仲間では結構有名なスポットらしく、毎年来ると言う取引先の若者もいた。今日中に仕事を済ませて、明日は有休を使ってカヌーを漕ぎます、なんていうスケジュールを羨ましく思ったものだ。国道を挟んだ山の緑と川に浮ぶカヌーの、ことに救命衣の赤が鮮やか。門外漢の私にも気持ちよさそうに見える。(2002年夏詠)

くろ猫の眼の浅緑麦の秋

いつもの散歩コースに見つけた麦畑。おまけに黒猫までもがこちらを見ている。猫は犬と違い黙ってこちらを観察するだけで、決して挨拶はしてこない。こちらもあえてちょっかいは出さないが、なんとも見事な眼をした黒猫だった。(2012年夏詠)