冬菊に残る夜明の月明り

二つ目に泊ったホテル、これは失敗だったなあ。確かに禁煙で予約したつもりだったのに、ひどい煙草臭で、案の定早く起き過ぎてしまった。ホテルを出るとまだ暗く、時雨でもあったのか路面が濡れていた。ホテルは山裾にあり、そこから中腹に向かって適度な坂道が続いている。坂道を登って行くと建物が途切れ、カーブする道沿いにたくさんの菊が植えられた一角があった。反対側は畑で、空にはまだ月が残っている。菊は月の光を受け、ほの暗い中に花だけが浮いているような、幻想的な景を見せていた。<阿南2>(2011年冬詠)

冬麗や街角ごとに地蔵尊

早いものです。徳島県阿南市での暮らしが、もう一年前のことなのです。掲句は俳句手帖を見ると赴任の翌日に詠んでいます。予想される運動不足の解消と、本来の好奇心を満たすためには、朝の散歩は欠かせません。昨夜買っておいたサンドウィッチとコーヒー(うれしいことに、最初に泊ったホテルにはドリップ式のコーヒーパックが付いていました)で朝食を済ませ、フロントで貰った近辺の地図を頼りに早速出かけました。まずはホテル周辺からと出かけた街角の景、朝にもかかわらず暖か、、、。<阿南1>(2011年冬詠)

痩犬の影を引きずる冬田かな

生来の野犬ではなく、年老いて捨てられた、自分で狩など出来ないような痩せた犬を見かけることがある。首輪をしているから確かに飼犬だったのだろうが、身体は汚れ、人間不信なのだろう、決して近づくことはない。哀れに思うが、どうしてやる事も出来ない。一度飼いだしたら最後まで見てやるのが当たり前だと思うのですが、、、。(2000年冬詠)

冬河原けものの気配して静か

この辺りに住んでいる獣と言えば、狐、狸、ヌートリア、鼬、犬、猫、鼠ぐらいです。野良犬はほとんど見かけませんが、野良猫はたくさんいます。どれも顔を合わせれば逃げ出しますが、こちらに見つからないうちは枯葎の奥に隠れて、ひっそりとこちらを伺っています。それはたぶん、狐か猫ぐらいですが、気配はするものの物音一つしないのです。(2010年冬詠)

葉牡丹の同じ顔して売られけり

ホームセンターやスーパーの前には、いろいろな苗が売られていますね。花にも野菜にも、知ったものもあれば知らないものも。これを買うでもなく見るのが好きです。ちょうど葉牡丹らしい形になりかけの苗が、箱一杯に並んでいました。同じような顔をして、、、。葉牡丹ってキャベツの仲間ではなかろうかと思うのですが、どうなのでしょうか?(2010年冬詠)

着ぶくれて古本市の人となる

毎年冬に図書館の主催で古本市があります。古くなった図書館の本や一般市民から寄贈されたを無料でもらえます。昔はずいぶん大規模で、市内の空き店舗を何軒も使って開催されていました。「えっ、こんな本も!」というような良い本もたくさんありました。最近は寄贈される本も少ないのでしょう、一ヶ所だけになり、寂しくなりました。それでも毎年楽しみにしています。今年も復刻版の本がまとめてあったので、三十冊ほど貰って来ました。「碧梧桐句集 大須賀乙字選」なんていう復刻版もあります、、、。(2008年冬詠)

花八手路地をぬけるに十歩ほど

家と家のすき間を抜けると交差点に出る。幅の半分ぐらいは水路で、通れるのは徒歩か、自転車か、せいぜいバイクまでという、いつもの短い路地です。この路地にはいくつも句を貰いました。そんなありがたい路地の片側、塀際の柿の木の下に忘れられたように植えられている八手です、、。ある日私のバイクの後をついて来て、私の後から迷わず路地に入って来られた軽四がありましたが、案の定抜けられず脱輪されてしまいました。「急がば回れ」、知らない方でしたが気の毒でした。(2010年冬詠)