暑ければ涼しいところを、寒ければ暖かいところを、猫は実によく知っている。その一つが風の通る柿の木の下であったりする。無防備かというとそうでもなく、眼だけは常に人間を追っている。「また来たか。まあ、このまま静かにしておこう。人間なんてすぐに気付かず行ってしまうさ」ぐらいの顔をしているように見える。(2000年夏詠)
カテゴリー: 2000
てんとむし真中の星を割りて翔つ
七星天道虫の一番前の星はちょうど真ん中にありますね。小さくて、可愛くて、悪いこともしないので好きな虫ですが、手にとまらせるとすぐに飛立ってしまいます。真ん中の星はきれいに二つに割れます。中に畳まれていた薄い羽がきれいに開くのも面白いですね。(2000年夏詠)
鳥よけの網の濃紺枇杷熟るる
もう時効となっている(と思う)子どもの頃の事です。人里離れた山田の傍に一本の枇杷の木がありました。持ち主が誰だったのかいまだに知りませんが、そこに枇杷の木があることは子どもたちの間で代々引き継がれ、熟れる頃を見計らってはみんなで盗みに行きました。ほったらかしの枇杷の木で、種ばかり大きくて決して美味しくは無いのですが、スリルはありました。大人たちも知っていたはずなのに、一度も叱られたことが無いのが不思議ですね、、、。掲句の琵琶の木は、会社へ通った道から田圃一枚隔てたところにあります。近くに寄って見たことはありませんが、網をかけてあることから、出荷される立派な枇杷だろうと思います。(2000年夏詠)
ガーベラや鍵かけて出る独者
ちょっと見つけた朝の風景、たいした意味はありませんです。(2000年夏詠)
消防のもぬけの車庫や春燈
今は移転したが少し前まで我家から50mほどのところに消防署があった。消防署と言っても平屋建ての小さな支署で、消防車と救急車が各一台、消防士さんも10人に満たないほどだった。人数は少ないが、毎朝の点呼や訓練の時には大きな声が我家まで響いてきた。昼間通ることはほとんどなかったが、ある春の午後通りかかると救急車も消防車も出払って、赤いランプだけがぽつんと灯っていた。やけに静かだった。(2000年春詠)
春雪や単線電車灯し来る
真冬に降る雪よりも春の雪のほうが記憶に残るのはそのはかなさからだろうか。掲句は姫新線の院庄駅と美作千代駅との間、降りしきる雪の中を、前照灯を灯した電車が大きくカーブしながら近づいて来るのが見えた。まるで映画のワンシーンを見るようだった。※姫新線は電化されていないので、本当はディーゼル車です。(2000年春詠)