「あれっ、こんな句がある」とノートから見つけた句。詠んだ時のことはさっぱり記憶にないが、十二月の句だからこのあたりに入れて置かないと、また埋もれて忘れてしまうだろう。ちょっと得をした気分、、、。(2002年冬詠)
カテゴリー: 2002
北風や廃工場の玻璃戸鳴る
大きな道であるとか、橋、川などで、どうしてもテリトリーが決まってしまう。同じような距離なのに、国道を渡って散歩に行くのは勇気が要る。意を決して国道を渡り脇道へ入って行くと、「へえ~っ、こんな所に」と思うような所に新しいマンションが幾つも建っていたり、林の中に神社や寺があったりする。結構楽しいなあと思いながら歩いていくと、閉じられた工場があった。何の工場だったのだろう、ずいぶん背が高いな、あまり傷んではいないから最近閉めたのかな。なんて事を考えながら周囲を巡っていると、突然近所の犬に吠えられた。(2002年冬詠)
冬晴やゑびすの顔の鬼瓦
鬼瓦って言うぐらいだから、元々は厄除けの鬼の顔だったのだろうが、よく見るといろいろな鬼瓦がありますね。ちなみに我家の鬼瓦は「ガッチャマンです」と住宅メーカーの営業マンが言っていました。う~ん、そう言えばそうかなとも思いますが、ようするに安物です、、、。(2002年冬詠)
着ぶくれて記念撮影押し合へり
津山市の文学の俳句部門で賞をいただいたのが2002年です。文化センターの会議室でセレモニーがあった後、ホールの玄関前に出て記念撮影がありました。西東三鬼の「花冷・・・」の句碑が見えるあたりです。その時に出来たのがこの句です。花冷どころか11月の寒い日でした、、、。その前年に佳作を頂きましたが、その時には「俳句はネットで、、、」と言うと、何人かの方から奇異な眼差しが返って来ました。一年経ってやっとネットでの俳句が認知され始めたのでしょう、この時には素直に受け入れていただけました。(2002年冬詠)
城跡に赤子泣く声秋暑し
赤穂での句。いつの間にか城跡と民家が入り組んだようなところに紛れ込んでいた。板塀の向うに集合住宅らしい平屋が並び、赤ん坊の泣き声が続いていた。さて、どちらへ行ったものか、と、真昼の太陽を見上げた。(2002年秋詠)
国宝の縁を借りたる三尺寝
閑谷学校は何度訪れても飽きることがない。丸みを帯びた石塀、講堂の磨かれた床、床に切られた炉の跡にも心惹かれる。講堂の縁に腰を下ろし、吹く風に身を任せながら古に想いを馳せていると、つい眠くなってしまう。(2002年夏詠)
形代の犬猫の名も流れけり
七月になると郵便受けに氏神様の封筒が入ります。中には半紙を切った形代人形が数枚入っており、それに家族の年書をして初穂料と一緒にまた封筒に戻します。これを子どもに持たせて七月十四日の夏祭にお参りさせます。茅の輪くぐりなどもありますが、受付で封筒を渡すと一回引かせてくれる福引が子どもの一番の楽しみです。公明正大な福引かどうかわからないですが、たいていは安物のチューブに入ったジュースや駄菓子の袋を持って喜んで帰って来るのでした。(2002年夏詠)
青りんご盥の水を溢らしむ
学生時代の夏、東北のとある山の中の停留所に降りた時のこと。昔は田舎に行けばどこにでもあった、停留所脇のよろず屋ふうの小さなお店。店先の盥にホースの水を流しっぱなしにし、拳ぐらいの青いりんごをたくさん浮かべていた。安かったので二個買った。一つはリュックにしまい、一つを齧りながら歩いた。焼けるような夏の日差の下で、りんごの酸っぱさが口に広がり、一度に汗が引くような感じがした。(2002年夏詠)
放たれて犬遠くあり大夏野
毎日の散歩コースの河川敷は、1キロメートルぐらいの区間に芝を植え、一度は公園として整備されたところだが、今は年に一二度草を刈られるだけで、次第に草原に変りつつある。整備された最初の年には、学区内の全町内会合同の運動会が開催されたほどのグランドや、ゲートボール場もあるが、ほとんど使われることはなく、犬を遊ばせるには絶好の場所である。そして私の日々の句作の場でもある。この句を詠んだのは、我家にまだ初代のプードルが健在だった頃、犬の代は変わったが、いまだに夏になると思い出す。良し悪しは別にして、自分では心に残っている句である。(2002年夏詠)
節くれの指より漏るる蛍の火
私の生家は庭まで蛍が飛んで来るようなところにあったが、中学生の頃に異常に蛍の多い年があり、無数の蛍が川の形の光の帯となって川を上り下りする、夢のような光景を見たことがある。すでに投稿少年だった私はそのことを文章に書いて、中学生文芸という雑誌に投稿した。さらにその文章を読んだ国語の先生から県の作文コンクールに出せと言われて、また書き直した記憶がある。だから、光景は現実で、夢ではなかったはずなのだが、最近では自分でもわからなくなってきた。二度と見ることは無いであろうし、夢の中の光景であっても構わない、蛍の川。句とは関係ない蛍の想い出でした。(2002年夏詠)