帰省に伯備線を利用していた頃は、岡山駅を出てしばらくは何本も線路のある広大な駅の風景が続き、駅って広いなと感じていたが、句会へ行くのにその線路沿いを歩くようになって、改めてその広さを感じている。電車の窓から眺める線路が中心にある風景と違い、たくさんの鉄道関連の建物や施設が町と複雑に入り組んでいるのが見え、興味を惹かれて飽きない。古い機関区の大きな建物では、開け放った大戸のむこうに整備されている機関車が見える。引き込み用の線路は機関車の下からその大戸を出てフェンス際まで敷かれ、夏には草に覆われている、、、。(2012年夏詠)
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ベビーカー押して大きな夏帽子
信号が赤に変わり、停まった車の前の横断歩道を、ベビーカーを押した若い女性が渡り始めた。つばひろの大きな夏帽子、スラックス姿で、前を見つめて確実な足取りでベビーカーを押していく。その姿には、はっきりと意思と自信が見て取れた。母親としての強さなのかも知れない。久しぶりに美しい母親の姿を見たような気がした、、、。(2013年夏詠)
老犬の眠り白南風かぎりなく
去年は夏を越せないかなと思っていた老犬アリス、夏を越し、秋、冬、春を越し、再び夏を過ごしています。全くの自然体で、白南風の吹く中で、ピクリとも動かず眠っている姿を見ると、今年こそホントにダメかなと思うのですが、またしてはムックリと起き上がり、大きな声で餌を要求するのです、、、。まあ、食べているうちは大丈夫かな、、、。(2012年夏詠)
炎昼の埴輪の口の開きしまま
倉敷美観地区にある倉敷公民館、この正面の道を渡ったところにある大きな埴輪です。「ギャラリーたけのこ村」と書かれた台座の上に二体置かれています。あ、そうそう、口は年中開きっぱなしです。私みたいなものです、、、。倉敷公民館は涼しいので、ちょっと一休みして句作を、、、。(2011年夏詠)
狂ひたる蝉一晩を鳴き明かす
我家の庭からも毎年何匹もの蝉が出てくる。時たまこういう蝉がいる。暑くて眠られない夜が、よけいに眠られなくなってしまう。困ったものだが、かと言って夜中に庭に出て昆虫採集も出来ないし、もんもんとして朝を迎えることになる、、、。(2008年夏詠)
草田男に採られし話水着着て
ロッカールームで着替えていると、先日登場していただいた老人が入ってきた。「つかぬ事を伺いますが、俳句をされるんですなあ」「ええっ、どうしてご存知なんです?」「いやあ、車のナンバーが819なんで、一ぺん聞いてみよう思うとったんです」「ああ、そうですか。何でご存知なのかとびっくりしました。はい、そうなんですよ。俳句、お好きなんですか?」「いやいや今はしようらんのですがな、若い時にね、長いこと入院したことがあったんですよ。それですることが無うて退屈なもんで俳句を勉強したんです、、、。一ぺんだけ中村草田男に採ってもらいました。”病院・・・ベッド・・・大昼寝(早口でよく聞き取れなかった)”だったかな。それがもう、うれしゅうてうれしゅうて、今でも忘れられんですなあ」とにこやかな顔で、心底うれしそうに話された。今は全くされていないようだが、またいろいろ聞いてみようと思う、、、。(2013年夏詠)
尾を立てて猫がすりよるあつぱつぱ
通りがかりに見たある田舎町の裏通りの夕方です。勝手口から出てきたあっぱっぱ姿のお婆さん、片手に団扇、片手に鍋、鍋には餌が入っているのでしょう、一緒にすりすりしながら尾を立てた猫が出てきました。お婆さんは戸の外の地面に鍋を置くと、さっさと中へ、猫はすりすりしていたことなど嘘のように、鍋の中へ頭を突っ込んでいました、、、。(2011年夏詠)
大藪蚊待伏せてをり外厠
最近はどこのトイレも綺麗になって入り易いですね。なんて、安心しているとこういう事も、、、。某有名なお寺のトイレだったと記憶しています、、、。(2010年夏詠)
扇風機机上の憂さをはらしけり
「ええい、全部飛んでけ!」とその時は思い、つかの間の快感に浸る。が、飛び散った書類を拾い集める時のむなしさよ、、、。今もそうだが、昔から机の上を整理するのは苦手だった、、、。会社にて(2010年夏詠)
今日大暑朝から用事頼まるる
たいした意味はありません。この暑いのに、朝からあれこれさせるなよ!と心の中で思った、という大暑の日のことでした、、、。(2011年夏詠)