夏草や選挙事務所の在りし跡

古い句を探したらこんな句がありました。何の選挙だったか記憶にないのですが、国道沿いの空地に建てられたプレハブの選挙事務所。選挙が終り、数ヵ月後に通ると跡形もなく、そこには夏草が茂っていました。どなたの事務所だったのか、結果がどうだったかも記憶にないということは、あまり関心がなかったからでしょうか、、、。今日は投票に行きます。結果は見えているような気がしますが、、、。(2000年夏詠)

くつきりと雲の影行く大夏野

これは蒜山高原へ行った時の句です。少し高い位置から眺めた夏野を雲の影が動いて行きます。高原の雲は低く、自分の位置からさほど高くない位置を流れて行きます。その分影が濃いのでしょうか、影を引きつれてゆっくりと流れて行きます、、、。(2000年夏詠)

シニアカ-ゲ-トボ-ルへ青田道

比較的初期に詠んだ句。早朝の青田道を一台のシニアカーが、スポーツ用品のカタログにあるような洒落たハットに、一目でそれと分かるスティックを積み、ゆっくり、ゆっくりと進んで行った、、、。この句を詠んだ当時は、今日の自分、即ち60歳を過ぎた自分の姿なんて、想像出来なかったが、なってみればどうという事も無く、こうしてパソコンに向かっている日々がある、、、。ところがである、同じ会社の同年代の元同僚に聞けば、すでに老人クラブからお誘いがあったらしい、、、。(2000年夏詠)

ラジオよりナイター流る紙器工場

通勤途上に倉庫を改造したような小さな紙器工場があった。時々朝早くから親会社のトラックが止まり、裁断したダンボールの束を降ろしているのを眼にしたが、従業員はいつも同じ人を一人見るだけで、他に人声がすることもなかった。裁断されたダンボールを箱に加工するのが仕事らしく、通る度にいつも古びたプレス機の音が単調にカタコンカタコン続いていた。冷房が無いのか夏には窓が開き、夕刻に通りかかるとラジオから、ナイター中継のアナウンサーの興奮した早口の声が、プレス機より大きな音で聞こえて来るのだった、、、。(2000年夏詠)

ががんぼの繋がつて飛ぶ日暮かな

大蚊と書くぐらいだから蚊の仲間なのでしょう。かといって人を刺す訳ではなく、触ればすぐに足が取れてしまう、いたって貧弱な、存在すらあやふやなような虫。そんなががんぼが、暮れ残る明るさの中を繋がって漂っていた(飛んでいたと言うより漂っていた)、、、。(2000年夏詠)

夏祭赤透き通るニッキ水

祭の屋台に並ぶひょうたん型のビンに入った鮮やかな色のニッキ水は、今となればどう見ても健康的だったとは思えませんが、何といわれようと子どもの頃は好きでしたね。今でも時々見かけますが、たぶん中身は成分も味も違っているのでしょう。ビンの形も昔はもう少しリアルなひょうたん型だったような気がします、、、。(2000年夏詠)

てんと虫真中の星を割りて翔つ

自分では似せているつもりは無いだろうから責任はないのだが、テントウムシに大きさも形も似たテントウムシダマシという虫がいる。テントウムシはアブラムシを食べる益虫だが、こちらは葉っぱを食べる害虫らしい。違っているのは背中の模様で、ダマシのほうは大きく広がったシミのような模様がついている。テントウムシは小さな粒の揃った七つの星が左右対称に配置されている。即ち一つは中央の羽の合わさる場所についており、観察しようとしたら見事に割れて飛んでった、というだけのことですが、いらないことを長々と書いてしまいました、、、。(2000年夏詠)

早苗饗の皆皺ふかき顔ばかり

田植が終ったお祝いに近所が集まって行う宴が早苗饗(さなぶり)です。これを作州地方では代満(しろみて)と言います。備中地方ではなんと言ったのか、子どもだった私には記憶がありませんが、楽しい行事であった事は記憶しています。ちょっとしたお祭りで、当番になった家にみんなが集まり、食べたり飲んだり、時には公民館で借りてきた映画が上映されたこともありました。私の田舎にも、大人も子どもも大勢いたころのことです。今は、、、。(2000年夏詠)

子蟷螂構へし鎌の薄緑

掲句の蟷螂は生れてしばらく経った蟷螂。生れたばかりの蟷螂は1センチメートルほどの白い半透明の身体をしている。もちろん鎌も半透明で、いわば竹光のようなものだ。動きも遅い。先日偶然に玄関の外の柱の上部に付いていた卵から生れてくる蟷螂を見た。まだ卵のところで動かないもの、地に落ちて移動しているもの、柱を伝って下りてくるものと、すでにさまざまな方向で生きようとしている。柱を下りてくる一匹が目の前まで来た時、柱の背割りの隙間から小さな蜘蛛が現れ、あっという間に糸をかけて、柱の隙間に持ち込んでしまった。その間ほんの4秒ほどだったろうか。これが自然というものだろう。一時間ほど過ぎてもう一度見ると、あれだけいた子蟷螂の姿は完全に消えていた。何匹が安全な場所に移動出来たのだろうか。もっともその子蟷螂も一人前になるには何十匹もの他の虫たちをその鎌の餌食にするのだろうが、、、。(2000年夏詠)

鳥曇野に傾きし墓数基

歩いて会社へ行く途中の、道路から田圃二枚ほど離れた場所に、古い墓地がありました。遠目にも古いとわかる大小の石塔が、同じ方向に傾いて道路のほうを向いて立っていました、、、。この句を詠んでしばらくして墓地は改修され、今では石塔はきちんと直立しています、、、。偶然の一致で、私が詠んだからではありません。(2000年春詠)